運び屋
クリント・イーストウッドが88歳にして、『人生の特等席』(ロバート・ロレンツ監督)以来、7年ぶりにスクリーンに帰ってきた。自身の監督作に登場するのは『グラン・トリノ』を最後に10年ぶりとなる。このところ実話を基にした作品が続くが、この新作もまた実際にあった事件がベースにある。90歳近い老人が凶悪な巨大組織から託された大量の麻薬を運び、とてつもない報酬を得ていたという、2014年に全米を驚愕させた出来事だ。
かつて、イーストウッドが自身や他の監督のさまざまな作品で演じてきたのは、世間の価値や権威をものともしない独自の倫理と正義をもつ、自由奔放で時にダーティーなヒーローだった。この系譜に連なるキャラクターで、現在の自分と同じだけ歳を重ねてきた人物となれば、自ら演じずにいられるわけがない。
しかし今回の主人公は、大仕事をやってのけるが、必ずしも正義のためではない。善や悪は関係なく、成り行きに身を委ねて、気ままにやりたいようにやるだけだ。朝鮮戦争の退役軍人らしくポリティカル・コレクトネスとは無縁だが、移民と対等に付き合い、女性に優しい。物事を深く考えず、人の役に立って喜ばれればいいというノンシャランな爺さんなのだが、家族だけは喜ばせられずにきた。外づらがよいあまりに家庭をおろそかにしてしまったことを悔い、その苦さが物語の底に流れている。
いまのイーストウッドにこれほど「ハマる」役と物語はないかもしれない。だからより一層、もう次はないのだろうかという思いがふと頭をよぎってしまう。エンドロールでは、1本の映画を見終えただけとは言えないような、切ないが温かい気持ちで胸がいっぱいになる。客席全体がそんな空気で満たされる稀有な体験が待っているだろう。
作品情報
- 原題=THE MULE
- 監督・製作=クリント・イーストウッド
- 脚本=ニック・シェンク
- 出演=クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、マイケル・ペーニャ、ダイアン・ウィ―スト、アンディ・ガルシア、アリソン・イーストウッド、タイッサ・ファーミガほか
- 配給=ワーナー・ブラザース映画
- 製作年=2018年
- 製作国=アメリカ
- 公開=2019年3月8日(金)、ロードショー
- 上映時間=116分
- 公式サイト=http://wwws.warnerbros.co.jp/hakobiyamovie/






