異なる時代の映像素材を駆使

年月の経過をリアルに映し出すために、ジャ・ジャンクー監督自身の手で過去に撮影してあった映像を使用しているのも、本作の大きな特徴だ。その時代ならではの風物や、現在の機材を用いたものとは明らかに違う質感が、絶妙にミックスされた映像になっている。

「編集や美術スタッフと話し合ったのは、車、バイク、道までもが当時と今では見た目が違うこと。なんといっても一番は、人々の顔つきでした。2001年当時、多くの人が今よりも貧しく、痩せていて、黒っぽい感じがしていたんです。撮影でその違いを表現するのは非常に難しいということもあって、思い切って過去の素材を織り交ぜることにしました」

これらの異なる映像素材に統一感を与えてくれたのが、フランス人の撮影監督、エリック・ゴーティエだと監督は言う。長編デビュー作の『一瞬の夢』からずっとコンビを組んできたユー・リクウァイが自身の監督作品の撮影でスケジュールが合わなかったためだが、この起用が功を奏した。

「当時は解像度も考えずに撮影していたので、あまり画質がよくなかったりもするのですが、そこにはちゃんと歴史的な手触りが残っている。それを使うことで、観客に対してもより説得力を持たせられると思ったんです。できる限り過去の画質とトーンをそろえ、時代の変化を伝えるために、新たなシーンは5種類のカメラを使って撮影しています」

流行歌を効果的に使うのはジャ・ジャンクー作品の特徴だが、この作品でも選曲によって時代を象徴的に表している。日本でもおなじみの洋楽のヒットソングのカバー曲のほか、登場人物の心情を反映したような歌詞の唄がここぞという場面で響いてくる。

「誰にもイントロを聴いただけで思い出がよみがえるほど強烈な印象を持つ曲がありますよね。流行歌を取り入れることで、観客を一瞬にしてその時代にタイムスリップさせる効果があると感じたんです。また、中国人には自分の本心を表現するのが苦手なシャイな人が多く、彼らの内に秘めた想いを表現するために、曲やダンスを使ったというところもあります。考えてみれば、14億人もの中国人の誰もが知っている曲があること自体、すごいことですよね」

©2018 Xstream Pictures (Beijing) - MK Productions - ARTE France All rights reserved
©2018 Xstream Pictures (Beijing) - MK Productions - ARTE France All rights reserved

リアリティーを追求した本作の中でひときわ異彩を放っているのが、チャオが1人で新疆を訪れた際に、UFOを目撃する場面だ。SF的な要素が突如混入してくることに一瞬戸惑うが、なぜか観客の張り詰めた気持ちに救いをもたらすシーンになっている。

「このときチャオは、非常に複雑な精神状態に置かれています。彼女は長年、父親や恋人のビン、裏社会の義兄弟たちと、面倒な人間関係を何とかうまく処理しながら必死に生きてきました。自分自身と向き合う時間がほとんどなかったわけです。でも新疆の満天の星空の下、彼女はUFOと遭遇する。『自分とつながった世界がある』とチャオが改めて認識することで、その後の人生も強く生き抜いていけるということを示唆したかったんです」