1000年の歴史を持つ名湯・土湯温泉

もう一つ、福島市内から車で30分ほどの近いところに、1000年の歴史を超える名湯がある。土湯温泉だ。その便利さとはいささか釣り合わないほど奥まった「秘湯」の雰囲気に満ちた所だ。

土湯温泉には、皇太子妃雅子さまが立ち寄られときのことを書かれた歌が詠まれている。「春あさき 林あゆめば 仁田沼の 岸辺に群れて みつばせう咲く」だ。そこは「歌碑公園」と名付けられ、ヒノキを使った足湯が作られた。その足湯に足を浸していると、粉雪が降ってきた。お湯の温度は45度ぐらいあり、しびれるぐらいの暑さだが、体の芯まで熱が足から上ってくる感覚が気持ちいい。

高湯温泉(撮影:野嶋 剛)

土湯はこけしの産地でもある。垂れ鼻におちょぼ口、大きな髪飾りが特徴のこけしがずらりと並ぶ。表情はとても愛らしい。日本の中で、鳴子、遠刈田(いずれも宮城県)と並ぶ、こけし三大産地に数えられる。首を回すとキーキーと音を出す。150年以上の歴史を持つ伝統民芸で、 今でも職人たちが伝統を守り継いでいる。製作実演を見学できる所もあるので、土湯の技を間近に感じたい。

こけし(撮影:野嶋 剛)

そんな“こけしの里”に湧く土湯温泉は、荒川の谷あいに広がる自然豊かな温泉地。 春には仁井田沼一面に10万株のミズバショウが咲き乱れ、秋は渓谷沿いの紅葉で賑(にぎ)わう。

土湯には、70カ所ほどの源泉があるという。源泉の井戸からは150度という熱水が、毎分1000リットルという豊富な量を湧き出している。泉質は無色透明の単純温泉。小さな湯の花が湯船にはふんわり浮かぶ弱アルカリ性温泉だ。土湯温泉の歴史は1000年の昔にさかのぼるという。

土湯は旧会津街道の宿場町であり、山岳信仰の宿坊地でもある。旅する人々の疲労を癒やすありがたい湯治場としても人々に愛されてきた。

土湯の温泉宿の大半は、温泉街に集中しているが、そこから1キロほど離れたところに「秘湯 川上温泉」がひっそりと建っている。ここは57.2~68.3度の単純泉だが、特徴があるのは、岩盤をうがった半天嵒窟(がんくつ)風呂。大自然の豊かさを感じる野趣あふれる温泉だ。

高湯温泉(撮影:野嶋 剛)

料理に出てきたのは福島牛のすき焼き。圧倒的な軟らかさ。これも福島のしょうゆでつくった割り下をかけて、福島産の野菜と一緒に食べた。大七酒造の日本酒の熱かんがぴったりだった。

土湯の野菜(撮影:野嶋 剛)

他の地域にも決して負けない福島の酒と湯。震災の痛手から立ち直りつつある。日本旅行の究極の楽しみを味わわせてくれること請け合いだ。

バナー写真:福島の酒と湯(撮影 野嶋 剛)