欧米が距離を置く中、踏みとどまる日本

こうした中国の進出について、ミャンマー政府は歓迎と警戒の複雑な思いを抱いているとされる。欧米社会から無視された軍政は中国と手を結んだ。スーチー政権になると、今度はロヒンギャ問題で、戻りかけた欧米は再び距離を置く。その中で、唯一「西側」の一員として踏みとどまろうとしているのが日本である。

日本政府のミャンマー重視は際立っている。政府開発援助(ODA)は単年度で円借款が2200億円から2300億円、無償援助で150-200億円に達している。ODA全体が抑制傾向にある中で、ミャンマーへの支援は突出している。

背景には、ミャンマーが伝統的な親日国であるという事情のほか、日本外交が長年ミャンマーに築いた影響力を切り崩そうという中国への対抗意識がある。

現在、日本の在ヤンゴン大使館にはスーチー氏との個人的信頼関係が篤いとされる丸山市郎大使をはじめ、ミャンマー語の堪能な人材がずらりとそろう。軍政時代に大学などで英語教育がおろそかにされたミャンマーでは、政府高官の英語力はあまり高くない。ヤンゴンにいる各国の外交団からは、現地語での交渉が可能な人材をここまでそろえているのは日本以外にはないと評判になっている。

ラカイン州への関与で競い合う

日本と中国の対ミャンマー外交が衝突する地は、ロヒンギャ問題に揺れる西部のラカイン州である。なぜこの地で日中が火花を散らすのか。

中国がミャンマーへの「南下」を格別に重視する理由が、「マラッカ・ジレンマ」の解消であると言われている。中国へのエネルギー輸入はマラッカ海峡に依存している。その点は日本も同じだが、海洋覇権を米国に握られている現状では、海上封鎖のリスクが高いのは中国。万が一、マラッカルートを喪失した場合の代替ルートを確保したいのだ。

代替ルートとしての中国の港湾開発は、パキスタンのグアダル港、スリランカのハンバントタ港とも共通する現象で、中国の「マラッカ・ジレンマ」への恐怖感は相当なものだ。ミャンマーでターゲットになっているのが、ラカイン州のチャウピューという小さな港である。

そこに中国は大量の投資をつぎ込み、ベンガル湾と中国大陸をつなぐパイプラインのエネルギー輸送路を築こうとしているとされる。ラカイン州は、ロヒンギャ問題で欧米から最も厳しい批判が向けられている場所だ。外国の投資は期待しにくい。習近平政権が打ち出した「一帯一路」プロジェクトにも結びつけながら港湾開発を進める考えだ。

「このままでは、ラカインは中国の独壇場になる」――。そんな危機感を抱いた日本政府は、ラカイン州への関与を継続する構えを見せる。2月下旬、ミャンマー政府主催の「ラカイン州投資フェア」に日本の丸山大使が駆けつけた。こうした行動は、欧米のロヒンギャ問題への厳しい姿勢と矛盾する部分もあるが、日本の態度は変わっていない。

中国も日本を意識している。日本政府が「ミャンマー国民和解日本政府代表」に笹川陽平・日本財団会長を指名すると、中国は孫国祥という人物をアジア特使に任命した。孫氏は事実上のミャンマー特使として何度も現地を訪れ、ラカイン州にも足を運んで、中国の国益を左右する港湾開発のスピードアップを図っている。

アジアの結節点にあたるミャンマーの地政学的な重要性をめぐり、台頭する中国の野心と、伝統的にミャンマーに食い込む日本がしのぎを削る格好だ。中国の一方的な浸透を、日本はどこまで食い止めることができるのか。つばぜり合いは今も続いている。

バナー写真:バナナ畑を耕すカチンの農民(ミッチーナ・ジャーナル提供)