「務めを果たせぬ天皇」ではいけないとの信念

⑥天皇の高齢化に伴う対処の仕方が、国事行為や、その象徴としての行為を限りなく縮小していくことには、無理があろうと思われます。また、天皇が未成年であったり、重病などによりその機能を果たし得なくなった場合には、天皇の行為を代行する摂政を置くことも考えられます。しかし、この場合も、天皇が十分にその立場に求められる務めを果たせぬまま、生涯の終わりにいたるまで天皇であり続けることに変わりはありません。

これから「天皇の高齢化に伴う対処の仕方」を考えると、一般的な考え方では、象徴としての行為を徐々に縮小する(他の皇族に分担いただく)か、または「天皇の行為を代行する摂政を置く」かのどちらかになろう。しかし、陛下はあらゆる務めをご自身で果たさなければ「国民統合の象徴」とはいえないとのご信念から、公務を過度に縮小することは無理であり、まして摂政に全ての務めを代行させることは不適切だ、と考えていらっしゃることが読み取れる。

前者については、宮内庁が「かつて昭和天皇も70歳代から行われた“御公務や宮中祭祀の見直し”を参考に」して、満75歳の平成21年(2009)1月から、少しずつ軽減を図ろうとしてきた。しかし、陛下は同24年(2012)2月に心臓の冠動脈バイパス手術を受けられた後ですら、「負担の軽減は、公的行事の場合、公平の原則(例えば、まだ行幸してない地方へ出かけなければ不公平になるとの考え)を踏まえてしなければならない」として、容易に応じられなかった。

また、後者については、摂政を置く条件として「天皇が、精神若しくは身体の重患又は重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、摂政を置く」(「皇室典範」の第十六条)とあるだけで、高齢を理由にはできないのである。

旧典範の下では大正10年(1921)から、重患の父君に代わって皇太子裕仁殿下(昭和天皇)が「摂政」となられた。しかし大正天皇は以後5年間生きておられたから、在位のまま何も為しえない天皇と全大権の代行を委ねられた皇太子との併在状態が続き、摂政宮(せっしょうのみや)として心苦しい思いをされたと伝えられている。

それを聞き知っておられる今上陛下は、昭和63年(1988)9月、父君(87歳)が危篤状態となられたにもかかわらず、あえて摂政ではなく臨時代行の立場で111日間通された。この例から考えれば、天皇は典範上の「重患」に陥られた場合でも、摂政を置くことが難しいに違いない。しかし陛下は、そのような「務めを果たせぬまま、生涯の終わりに至るまで天皇であり続けること」ではいけない(憲法上の象徴たりえない)と、考えていらっしゃるのである。

天皇・皇族のお務め

祭祀行為 天皇・皇族 大祭:祭主は天皇(皇族らは拝礼)
小祭:祭主は掌典長(天皇は拝礼)
国事行為 天皇のみ 憲法六条(行政・司法の長の任命)
憲法七条(法律公布・大使接受など)
公的行為 天皇・皇后 国内関係:特別行幸啓・殊勲表彰・歌会始など
国際関係:外国訪問・国賓歓待・大使親善など
成年の皇族 皇太子・同妃・・・天皇・皇后の代行、東宮の公務
宮家の皇族・・・皇太子・同妃に準ずる公務の分担