対象の本質をつかむ 【今治タオル】

課題を解決する、という佐藤の姿勢は、四国の地場産業「今治タオル」のブランディングでも同様だ。世界レベルで通用する技術があるのに、ブランドの構築ができずに衰退していく。良質なタオルの産地である今治は、日本の地場産業が抱える共通の課題に悩んでいた。佐藤にとって、課題解決の決め手は何だったのだろうか。

今治タオルのロゴには、白に映えるデザインが考えられた。

佐藤  今治のタオルは、複雑なジャガード織の技術を売り物にしていたのですが、それ以前に、肌触りがとてもやわらかで、吸水性にすぐれているんです。僕にとっては、そこが一番驚くところで、その「安心・安全・高品質」を、「真っ白なタオル」に集約して打ち出すべきだと考えました。だから、白いタオルに映えるという前提で、ビジュアル・コミュニケーションの核となるロゴマークをデザインしたのです。やさしさを表す「白」、今治のやわらかい水と安心・安全をイメージさせる「青」、太陽と活力を象徴する「赤」を使った、シンプルで鮮やかなものです。このマークは織ネームだけでなく、店舗の看板になったとき、紙に印刷したとき、写真に撮ったとき、スマートフォンで見たとき……と、あらゆるコミュニケーションの場面を想定してデザインしました。

僕が業界の内部にいたら、ジャガード織という技術にもっと目が行っていたかもしれません。人間って、自分では気付いていない当たり前のポイントを見つけることが、実はとても難しいんです。ブランディングは、その対象の本質をつかむことから始まります。その意味で、外部の人間だからこそ、よく見えるというところはありますね。

伝統からポップまで、製品から街まで

最近は有田焼創業400年記念事業で有田焼の作品を発表したり、歌舞伎の八代目中村芝翫襲名披露公演の祝幕を手がけたりと、日本の伝統文化に関わる仕事も少なくない。ところがそのアプローチは、伝統文化の既成概念を打ち破る斬新なものだ。

歌舞伎・八代目中村芝翫襲名披露公演の祝幕。
佐藤可士和デザインのロゴをフィーチャーした襲名記念公演のステッカー。

佐藤  僕の中ではこれらもやはりブランディングなのです。歌舞伎も有田焼も400年にわたる伝統と技術があります。そのすばらしさを国内だけでなく、もっと広く世界中の方々に知ってもらいたい。そのためには、伝統や技術の話を長々と語るだけではダメなんですね。有田焼でいえば「いかに新しく見えるか」が勝負。歌舞伎も同じです。「リビングヘリテージ(Living Heritage)」と僕は呼んでいるのですが、単なるヘリテージじゃない。現在も、古典から新作までさまざまな作品が上演され、エンターテインメントとして社会の中で評価されているという「息づいている感」が大事で、その本質と哲学を、シンプルでクリアな、一度見たら忘れないイメージに凝縮して伝えたい。

現代はコミュニケーションのスピードが、ものすごく速くなっている。一瞬で対象物の価値を伝えないと、劇的な効果が得られないんですね。僕はメディアも限定しません。SMAPのCDアルバムのキャンペーンを手がけたときは、街のビルボードをはじめ、路上で駐車中の車も全部カバーで覆って、渋谷の街ごとメディアにしました。そのように、街も建築もプロダクトも、全部アイコン化できるのです。

コミュニケーションをデザインする

佐藤は2016年4月、文化庁から文化交流使に任命された。アーティスト、文化人、研究者などを外国へ派遣する事業で、これまで、茶道、書道、建築、文学、舞台芸術、現代アートと幅広いジャンルの人々が活動してきたが、クリエイティブディレクターが任命されたのは今回が初めてだ。佐藤は2017年3月から4月にかけて、ニューヨーク、ロンドン、パリの三都市で講演を行い、パリでは展覧会が開催される。全体を貫くキーワードは「アイコニック・ブランディング」だ。

佐藤可士和が制作した有田焼「Dissimilar」シリーズ。

佐藤  僕がやっている「コミュニケーションをデザインすること」が文化としてとらえられるようになったのであれば、とてもうれしいことです。クールジャパンとはまた別の切り口で、日本の可能性を見せたい。今回の活動場所となるニューヨーク、ロンドン、パリはどこも大好きな都市。中でもパリは、日本文化と親和性が高い場所だと感じています。アウトプットのテイストは全然違うのですが、根幹にある美意識が通じ合うのがパリじゃないかな、と思っています。

日本の文化は、まだまだ海外で知られていません。僕自身、海外の人と「これぐらいは、知っているだろう」と思って話していても、実は通じなくてがっかり、ということがたくさんあります。でも「アイコン」という手段を使えば、困難が一瞬で解決することがある。コミュニケーションというと、人はたいてい言語を思い浮かべますが、僕はアイコンが持つ突破力を追求していきたい。その方法論を海外でも、もっと実践していきたいですね。

インタビュー・文=清野 由美
インタビュー撮影=大河内 禎
ビデオ=花房 遼
佐藤可士和 文化庁文化交流使 日程
  • 講演:
    2017年3月22日(水)18:30~20:00 ジャパン・ソサエティー(ニューヨーク)
    3月27日(月)18:00~20:00 ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(ロンドン)
    4月4日(火)18:30~20:30 パリ日本文化会館(パリ)
  • 展覧会:
    4月4日(火)~4月15日(土)パリ日本文化会館
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佐藤可士和がこれまでに手がけた「作品」の数々をスライドショーで。 【Photos】クリエイティブディレクター・佐藤可士和の世界