台湾での生活で、自身の感性や感覚で生きていけばいいことに気付く
台湾の人々の温かさやホスピタリティに心地良い衝撃を受け、この土地にすっかり魅せられた青木は、2カ月後に台湾を再訪すると、移住のための情報を収集した。そして、その年の11月には語学留学生として三度(みたび)この土地を踏むこととなった。そして、語学学校に通う傍ら、以前客として施術をしてもらったことのある小さなマッサージ店に住み込み、足つぼマッサージの修行をすることになる。
「アートで食べていく自信はなかったし、以前このマッサージ店で施術してもらい、頭も身体もすっきりとして気持ちが前向きになった経験が決め手でした。あのすっきり感を維持できたなら、台湾で自分もきっと何かできそうな予感がしたのです」
それから半年ほどすると、青木の関心は足つぼから台湾茶へと移り、お茶屋通いに明け暮れるようになる。「徳也」というお茶屋では、初めて「功夫茶」と呼ばれる中華系のお茶の作法や宮廷菓子に触れた。やがてその店主から茶人の集いにも誘いを受けるようになると、何年も熟成させた「老茶」の世界に足を踏み入れた。老茶はカフェインが抜け、梅のような香りがするが、飲むと全く別の香りが現れる。その奥深さに引かれた。希少な老茶は投機の対象ともなり、大変高価なものもある。が、好奇心旺盛な日本人留学生は台湾の茶人たちにもすっかり受け入れられ、さまざまなお茶を試飲させてもらえた。今度はその経験を文章にまとめ、ブログや雑誌で日本向けに発信し始めた。すると、その情報を目にした「茶通」が、日本からわざわざ青木の通っていたお茶屋に足を運んでくるようになった。ところが、日本の茶通の書物からの膨大な知識を前にして、ただのお茶好きだった青木はたじたじとなる。迷いも生じた。そもそもおいしくお茶をいただくとは、一体どういうことなのか。台湾の代表的茶人の「九壷堂」の店主が、青木のこの疑問に答えてくれた。
「自分がおいしいと思う飲み方は、飲む人が決めれば良いのです」
お茶はそもそも嗜好(しこう)品であり、発酵度合い、お湯の温度、茶器、茶葉の量などの違いによって味も香りも変化する。自分でいろいろと試してみて、自分が最もおいしいと感じる飲み方を研究しなさいと、その店主は青木に高価な老茶を大きな茶筒ごと渡してくれた。
「儀式や流行、道具へのこだわりよりも、もっと大事なものを教わりました。この言葉はストンと腑(ふ)に落ちました。自分には資格は必要ない。自分の感性や感覚を頼りに生きていけばいいのだと、この時に悟った気がします」
