台東成功鎮の張旺仔さんが語る船上の「沖縄体験」
昨年、日本で公開されたドキュメンタリー映画「台湾萬歳」(酒井充子監督)の中で一人の小柄な老人がこう話していた。
「2、3年間、私ね、沖縄人と一緒に魚捕りして、多少は、簡単のは、話がちょっと覚えていますよ」
声の主は、台東県成功鎮に住む張旺仔(チョウ・オウシ)さん(86)。
「台湾萬歳」は、自然本位に流れていく時間の中で巧みに暮らしを立てていく台湾東部の人々が主役だ。カメラは、狩りのために山に分け入るブヌン族の人々や、カジキを狙って海に乗り出す漁民の姿を追いかけていく。山と海が織りなす台東の地誌を、生活者の視線から切り取ったといえるだろう。
張さんは、カジキ漁の元漁師。作中の語りは、沖縄からやってきた漁師と一緒に海に出たことがあるという証言である。
台湾の港町は、日本統治期とその後しばらくの間、沖縄からやってきた漁師が足跡を残しているケースが少なくない。成功鎮も例外ではなく、終戦当時の状況を示した資料には、沖縄出身者201人分の記録が残されていることが分かっている。
張さんの「沖縄体験」とはどのようなものなのだろうか。お話を伺っていくうちに、沖縄漁民の「台湾体験」と重なり合う部分が見えてきた。日台間に国境が引かれて70年以上を経てもなお、海をめぐる台湾と沖縄の結び付きは漁師の記憶として刻まれているのだ。
