80年代、中華圏エンターテインメントの中心地だった香港

香港でポピュラー音楽が始まったのは、中華人民共和国が建国されて以降だ。

1930年代、上海のフランス租界に、フランスのパテ社の現地法人・上海百代唱片公司が作られた。そして、そこから出される欧米と中華の見事な融合を成し遂げたポップスは多くの人に支持された。この時代のスターは、俳優も歌手もこなす。周璇、白虹など、まさにスターという言葉がふさわしい存在だった。

EMI百代からリリースされた周璇のアルバム(筆者撮影)
EMI百代からリリースされた周璇のアルバム(筆者撮影)

その後の大陸の大きな政治的変化により、エンターテインメント・ビジネスにかかわる人々は香港へ相次いで移住する。百代も1953年に香港に拠点を移し、上海時代の歌手だけではなく新人歌手の発掘も行なっていったが、国語(中国の標準語)で歌われるポップスは徐々に衰退して70年代には終焉を迎え、広東語ポップスが大きく動き出す。

一人のアーティストが登場した。サミュエル・ホイ(許冠傑)。日本でも彼が主演し音楽も担当した庶民派コメディ、Mr.Booシリーズが大変なブームになったのを覚えておられるだろうか。日本では「Mr.Booギャンブル大将」として公開された映画の原題が「鬼馬雙星」で、サミュエル・ホイが74年にリリースしたアルバム「鬼馬雙星」が彼にとって最初の広東語アルバムとなった。

サミュエルホイの最初の広東語アルバム『鬼馬双星』(大澤真木子さん提供)
サミュエルホイの最初の広東語アルバム『鬼馬双星』(大澤真木子さん提供)

サミュエル・ホイ自身、もともと英語で歌うバンド、ロータス(蓮花楽隊)のメンバーであり、当時イギリスの植民地だった香港には直に欧米のポップスが入っていったという背景もある。それだけに、サミュエル・ホイの作るベタな庶民の歌詞、たとえば、「働いても働いても、生活が楽にならない」(「半斤八兩」より)といった歌詞の曲でも、バックのサウンドに洋楽バンドのテイストがあり、そこがまた新しかった。

80年代、香港は中華圏全体の中のエンターテインメントの中心地になった。圧倒的に華やかなステージを見せるショウアップされたコンサートを演じつつ、美しくおしゃれな衣装をまとい、世界に誇る香港映画でも主役をはる。これらを同時にこなすスターが次々と登場した。今は亡きアニタ・ムイ(梅艷芳)、レスリー・チャン(張國榮)などは、改革開放直後の中国でも大変な人気を博し、日本にもファンは多かった。

90年代になると、4人の男性スター、ジャッキー・チュン(張學友)、アンディ・ラウ(劉徳華)、アーロン・クォック(郭富城)、レオン・ライ(黎明)が、「四大天王」という名のもと、映画でも音楽でも大活躍し中華圏に君臨した。日本の中華圏エンタメファンなら誰でも知っている彼らは現在も圧倒的な人気を誇っている。

他にも、ウォン・カーワイ(王家衞)監督の映画で個性あふれる存在感を見せた北京出身のフェイ・ウォン(王菲)、圧倒的な歌唱力で明確な個性を表現するサンディ・ラム(林憶蓮)などの女性スターたちも素晴らしい活躍を見せた。

香港の中国返還以来、エンターテインメントが減速した感があり、日本のファンも減ったことは否めない。それでも、香港スターはなお特別な光を放っている。同じ広東語圏の中国広州市出身のヒンズ・チャン(張敬軒)などは、圧倒的な歌のうまさと華やかなルックスで広東語ならではバラードを歌いきる。往年の香港映画のサウンドトラックの多くを作ったローウェル・ロー(盧冠廷)は、自らの曲をセルフカバーし中華圏全体で高い評価を受けている。四大天王の中でも「歌神」といわれるジャッキー・チュンはなお健在で、1月末に2年3カ月にわたるツアーを、なんとこのツアーで233回目になるというコンサートで締めくくった。

ところで、Supper Momentというバンドが、今香港で若者を中心に絶大な人気を博している。去年香港で行なわれた音楽祭で彼らを見ることができたが、7000人以上が入る大きな会場でのパフォーマンスのすばらしさに圧倒された。今年は、日本で行われるサマーソニック・フェスティバル東京の8月16日に出演が予定されている。

サパー・モーメント(提供:Redline Music Limited)
サパー・モーメント(提供:Redline Music Limited)

大澤さんは、サパー・モーメントを「BEYONDの意志を継ぐバンド」の筆頭的な存在だという。もちろん、サパー・モーメントは、中華圏に共通する国語の歌も歌っている。香港らしさを継承する音楽が、香港以外でも受け入れられている背景には、香港の若者たちが体現する「香港」が、いまなお多くの人たちを感動させるパワーを持っている証拠であるように思えてならない。

バナー写真=サパー・モーメントのライブ(提供:Redline Music Limited)