進路指導のプロに聞く
では、日本の教育現場ではどのような進路指導が行われているのか。
1991年から3年間台北日本人学校に勤務。92~93年には、進路指導主任、3学年主任、3学年担任をした経験を持つ江戸川区立小松川第二中学校の横澤広美校長を訪ね、話を聞いた。(インタビューは2019年夏、同校校長室で行った)
横澤先生の答えには迷いがなかった。
「教師に進路のアドバイスはできても、決めるのは生徒自身ですよね。義務教育が終わってから高校へ行くかどうか、どこへ行くかの選択は自分でしなければならない。ですから中学校の3年間では、それをできるようになるための指導をしていきます」
お話からは、様々な教育の現場を見てきたことがうかがえた。
「過去に東京の離島へ赴任したことがあります。島には高校がなかったので、親たちは子どもが15歳になったらひとり立ちできるように準備していました」
そんな横澤先生に、義務教育において大切なことは何かを聞いた。筆者の子どもは台湾の小学校に通っているが、そこでの教育内容は日本で自分が受けてきたものとは大きく異なる。それでも「家庭内の教育において何か取り入れられることがあれば」との思いがあったからだ。
「義務教育は人格形成の基礎になります。人格が形成される時期に日本語で集団行動することがひとつのポイントだと思います。同じ年齢集団で学んだり、遊んだり作業することを通して、自分と違う人がいることや、共同で作業する喜びを知ることができます。できれば少人数ではなく、ある程度の人数を集めた集団として行動できると良いですね。例えばラジオ体操。私たち日本人は小さい頃からそういうものだと思ってやっていますが、他国の方から見ると見慣れない光景ですよね」
確かに、筆者自身が前回の寄稿で取り上げた「台北日本語授業校」に子どもを通わせている理由がまさにそこだった。「日本語を習得させる」という目的のためなら、家庭教師や塾に通い、プロに教えを請うという選択肢もある。遊びたい盛りの小学生からは始めず、大きくなって第二外国語として学習するという手もある。ただ、「台北日本語授業校」を選んだのには日本語「を」ではなく、日本語「で」ほかの子どもたちとともに学び、成長する場であることに魅力を感じたからだった。これはやはり重要なことだったのだ、と勇気づけられた。
「集団行動の方法として海外在住の方におすすめできるのは、一時帰国の際に日本の学校に受け入れてもらう『体験入学』ですね。各自治体によって受け入れ体制は異なりますが、義務教育ならではの制度です。当校では受け入れています。」
筆者の子どもも台湾の長い夏休みを利用して日本の小学校に「体験入学」したことがある。体験を終えると、それまで「台北日本語授業校」に通うことに消極的を超えて反抗的だった子どもが、「日本語を勉強して良かった」と口にした。プールや鍵盤ハーモニカを使った音楽の授業など、台湾の現地校にはない科目がとても楽しかったようだ。
「体験入学」は受け入れ先の学校に負担がかかるため、メディアで紹介することを躊躇(ちゅうちょ)していたが、横澤先生が背中を押してくれた。「教育委員会や学校側に相談して、受け入れ学校を探してみると良いと思います。当校の場合、そこまで負担にはなりません」
横澤先生は2009年に米国のニュージャージー日本人学校へ校長として赴任した経験を持つ。日本に帰国後、ご子息の英語力をいかに維持するか試行錯誤したという。
「教育に正解はないけれど、子どもの未来をできるだけ良いものにしてあげたい、いろいろなものを吸収させてあげたい、というのが親心ですよね。私も自分たちが英語圏にいたことがあるからといって、子どもに絶対に英語が話せるようになってほしいとは思っていません。本人が英語を好きになってやりたいならやれば良いと思っています。『バイリンガルでなければ幸せなではない』ということはないですよね。親はできる範囲で、学校選びなどの手助けをするだけです。」
ふと親の顔になった横澤先生から「正解はない」という言葉を聞き、いくばくかほっとした気持ちで学校を後にした。


