ウケなくたっていいんです
ショーを終えた鉄拳本人にも聞いてみよう。「あるあるネタのリアクションは意外にも日本と同じでしたね。思ったよりウケました。淡々とやって終わるんじゃないかと思ってたんですが…。でも、ウケなかったらどうしよう、という心配はなかったです。日本でもありますからね。今回もショーの前半はアニメの人気キャラをネタにして、あえて笑いは取りにいかなかったでしょ? アニメ好きのお客さんが多いと聞いていたので、誰もが知っているキャラをとりあえず全部出そうと。まずは挨拶代わりのこういうネタで喜ばせて、親近感をもってもらう。みんなニヤニヤしてたから、作戦成功でしたね」
海外は初でも、そこは芸歴20年の経験、観客の反応をつかむのはお手のものだ。とはいえ、そこまで綿密に戦略を練るタイプではない。それはパラパラ漫画についても、自分の人生についても同じだ。「6年前、仕事が来なくなり、芸人を辞めようとしたことがあるんです。辞める日まで決まっていたのに、たまたま直前にパラパラ漫画の仕事を依頼されました。まだそのときは、これでこの先どうにかなるなんて、まったく考えなかった。人を感動させようなんていうつもりも全然なくて」
2012年に制作したパラパラ漫画『振り子』も、ウケを狙わない無欲の姿勢から生まれた。英国の人気バンド「ミューズ」の曲をBGMに使用したのだが、それがきっかけで、そのミュージックビデオとして正式採用されることになったのだ。まったく予想外の展開のおかげで『振り子』は世界中で視聴され、パラパラ漫画の仕事が次々と舞い込むようになる。
鉄拳のパラパラ漫画最新作 浅田真央のスケート人生を描いた『SLIDE』
「テーマは依頼ありきです。それに合わせてストーリーを練っているうちに、過去に見た映画や漫画の影響なんでしょうか、意識はしていませんが、自然とイメージや構図が頭に浮かんでくる。頭の中で一度それを組み立てたら、あとは下書きもせず、ひたすら夢中で手を動かす。それだけなんです。映画の監督もやってみたら、なんて言われますが、無理ですね。人に命令できませんから(笑)」
強烈な見た目とは裏腹の気の弱さも鉄拳の魅力だ。決して我を通さず、ときに流れに身を任せながら、好きな絵に無心で打ち込む。そんなふうに苦境をチャンスに変えてきた。
欲のなさそうな鉄拳にも、今やりたいと思うことがある。「パラパラ漫画のショートフィルムを海外の映画祭にも出したいですね。今までのような人生や家族をテーマにした感動モノだけでなく、お笑いやアートっぽい作品にも挑戦してみたい。まずはその前に、こんな格好をしたお笑い芸人が1秒6コマのパラパラ漫画を一枚ずつ手描きで作っている、ということを浸透させられればいいなと思っています」
今回、海外の観客と直に触れ合ったことで、その確かな手ごたえをつかんだようだ。
写真=澤田 博之(パリ市内)、樋野 ハト(ジャパンエキスポ会場)取材・文=ニッポンドットコム編集部



