世界に通じる機能美

首都・東京でも地上における治水工事が難しくなっており、近年、地下洪水対策施設が多数整備されている。すでに12河川28カ所の地下調節池が稼働しており、10以上の施設が計画・工事を進行中だ。代表格として知られる「神田川・環状七号線地下調節池」は内径12.5メートルで長さ4.5キロメートル、「古川地下調節池」は内径7.5メートルで長さ3.3キロメートルの地下トンネルを持つ。いずれも巨大な施設で、浸水被害を大きく減少させている。
同じ地下の洪水対策施設のため、これらと首都圏外郭放水路は同じ機能だと混同されることも多いが、大きな違いがある。

「調節池は、降雨によって増水した河川の水を地下空間に一時的にためて、洪水被害を軽減するものです。首都圏外郭放水路は“放水路”なので、水をためるだけでなく、他の川、つまり江戸川に水を放流する機能を持ちます。そのため、巨大な調圧水槽や強力な排水システムがあるのです」(矢部さん)
つまり、地下神殿を見学するには、首都圏外郭放水路を訪れるしかないのだ。

左上)見学会の集合場所・地底探検ミュージアム「龍Q館」は庄和排水機場内にある 右上)龍Q館では展示物を見ながら係員による施設説明が行われる 左下)3面のスクリーンで解説動画が観られる地底体感ホール 右下)実際の操作室ものぞくことが可能

日本語を理解できること、通訳を同伴することのどちらかが条件となるが、海外からの見学者も受け付けている。取材当日に参加していた台湾の女性は、羽田空港からスーツケースを持ったまま首都圏外郭放水路に直行して来たという。「友だちがネットでここの存在を知り、『どうしても見学したい』って、日本語ができる私を誘ったのです。実際に来てみるとすごい迫力で、日本の技術力に圧倒されました。台湾でも洪水や台風が多いので、こういう施設が欲しいです!」と感激していた。

調圧水槽からは第一立坑が見える。こちら側の眺めも人気が高い

矢部さんは、「地下の施設だからこそ、広報活動が大切」と語る。
「普段は見ることができない地下にあるため、興味を持っていただく機会が少なく、施設の役割や設備についても誤解されがちなのです。それも、撮影協力や、見学会の開催に力を入れている理由です。もちろん調圧水槽は、見学会の人集めや撮影に使われることを前提に、こうした形状にデザインされたわけではありません。首都圏外郭放水路は、世界初の試みや最高峰の技術がたくさん詰まっています。この荘厳な雰囲気は、まさに“機能美”なのです。そのため、世界に通じる美しさがあり、多くの方に興味を持っていただいているのでしょう」

階段上部から眺めても美しい調圧水槽

【施設データ】

首都圏外郭放水路管理支所・庄和排水機場
  • 埼玉県春日部市上金崎720
  • 東武野田線(東武アーバンパークライン)南桜井駅北口から徒歩40分、タクシー7分(約3km) ※春日部市コミュニティバス「春バス」が運行しているが、運行日・運行時間が限られる
  • 地底探検ミュージアム「龍Q館」開館時間:午前9時30分 ~ 午後4時30分
  • 入場料:無料
  • 見学会の詳しい情報は「首都圏外郭放水路HP」で
取材協力=国土交通省 江戸川河川事務所
写真=三輪 憲亮
取材・文・動画=ニッポンドットコム編集部