文化を使い捨てにしてはならない
近年、和包丁の輸出量が伸びているのに対して、日本国内での需要は減少中だ。職人が作る和包丁は高価な上に、刃が鋭いために刃こぼれがしやすく、定期的に研がなければいけないからだ。それに比べて、ステンレス製の洋包丁は安価で、メンテナンスも簡単なものが多い。
「包丁は毎日使う物。切れる包丁だと料理時間を短縮できるし、料理自体も楽しくなります。たまに研ぐことくらいは、時間や労力のロスには全然なりません。どちらかというと、メンテナンスの必要性や方法をきちんと伝えないで売るショップが多いことが問題なのです。和包丁は、大切にすれば長く使える物。使い捨てのような安い包丁を使うことは、素晴らしい文化を捨てることにもつながります」(ビヨンさん)
職人の技術が伝えられる店
「Tower Knives Osaka」は、しっかりとした和包丁の説明と品ぞろえの良さが、国内外で評判を呼んでいる。開業当初はビルの2階にあったが、すぐに近くにある広めの路面店へと引っ越した。15年には、東京スカイツリータウンにある商業施設「東京ソラマチ」に「Tower Knives Tokyo」を出店。そして16年末に、本店近くに完成したのが「Tower Knives Osaka 刃物工房」だ。
「刃物工房は、まさに僕の理想形。職人とお客さんが触れ合える店を作りたかったのです。和包丁は職人の技があっての物。いくら丁寧に商品説明をしても、職人の磨かれた技術と丁寧な仕事をお客さんに知ってもらえなければ、和包丁の本当の魅力は伝わりません。この新しい店舗では職人の技術に触れられるし、直接対話することができ、作り立ての包丁も買えます」(ビヨンさん)
人生を豊かにする和包丁
関市の「研ぎ」専門の職人の家に生まれた小林さんは、ビヨンさんに励まされながら技術を学んだという。今では全工程を一人で手掛け、自分のブランドを持つ包丁職人へと成長した。
「ビヨンの店では、お客さんと直接話ができて、喜んで包丁を買ってくれる姿を見られます。職人にとっても、やりがいにつながる店です。さらに、藤井さんのような、違う地域の優秀な職人さんと触れ合い、技術を学ぶことができます。お客さんとだけでなく、あまり交流がなかった日本各地の包丁職人たちともつないでくれる店なのです。和包丁の国内需要は減少していますが、職人一人ひとりの努力だけでは、その状況を変えるのは難しい。ビヨンは、和包丁界の救世主になるかもしれません」(小林さん)
ビヨンさんは店舗運営以外にも、講演活動などで和包丁の魅力を発信する。他にも、訪日外国人向けの和食料理教室に和包丁を提供して、実際に使うことで良さを感じてもらえるようにしている。
「日本語では“切れ味”という言葉を使いますが、まさに“切れ”は“味”を作ります。和包丁は料理をおいしくするし、料理を楽しくもするのです。海外のお客さんから、『和包丁のおかげで人生が変わった』『幸せになった』というメールをよくもらいますが、私は決して大げさではないと感じています。海外でも少しずつ和包丁が使われていますが、流通しているのは “まあまあ”の大量生産品が多い。もっと優れた職人の和包丁を世界に広められるように頑張っていきます」(ビヨンさん)
●店舗情報
「Tower Knives Osaka」(本店)
- 大阪市浪速区恵美須東1-4-1
- 営業時間:午前10時〜午後6時 毎日営業
- 地下鉄堺筋線恵美須町駅から徒歩3分、地下鉄御堂筋線動物園前駅から徒歩8分
- 常時300種類以上の和包丁が揃えられ、値段も5千円くらいのものから20万円以上するものまで幅広い。
- 言語:英語とフランス語対応のスタッフが常駐。日によっては中国語スタッフも
- http://www.towerknives.com/
取材・文=ニッポンドットコム編集部
(*1) ^ 輪切りにした大根、キュウリなどを、皮をむくように薄く長く帯状に切る和食の技法






