シッティングバレーの楽しさに目覚める
退院後に始めたシッティングバレーは、思ったよりも難しかった。一般のバレーボールよりコートが狭く、ネットが低く設置されており、レシーブする短い時間を除いて、臀部(でんぶ)をコートから浮かしてはならない。金木は中学時代にバレーの経験がある分、ジャンプする癖が体に染み込み、慣れないうちは何度も反則を取られた。だが、付き添ってくれた母にこう言われた。
「こんなに楽しそうな姿は初めて」
以来、週末はシッティングバレーの練習に費やす。
がんが再発するかもしれないと一抹の不安は常にあったが、「5年生存説」をクリアした23歳で結婚、夫の赴任先の高槻市に移り、野村証券高槻支店に職を得た。
以来、仕事、家事、育児、そしてシッティングバレーの練習と忙しい中で、健常者への普及活動にも精を出す。
厳しい練習環境で成果を出せるか
東京パラリンピックまで2年余り。1チーム6人で行うシッティングバレーは、通常のバレーと同様に25ポイントを先取して3セット獲得した方が勝つ。座ったままで行い、ネットの高さとコート幅が違うことを除けば、ルールは通常のバレーとほとんど変わらない。大会では大いに活躍してシッティングバレーの魅力をアピールしたいと金木は言うが、現実はなかなか厳しい。
シッティングバレーは個人競技と違い、選手がそろわなければ、効果的なチーム練習ができない。現在女子の日本代表候補は15人近くいるが、住む場所も全国に散らばっている。だが、国際基準の競技用床材コートマット(タラフレックス)が敷かれた体育館があるのは、今のところ姫路市だけ。毎月土曜、日曜に合同練習が行われるが、常に全員が集まれるわけではなく、チームの意思疎通がなかなかできないのが現状だ。
「それぞれの仕事、家庭環境などによる制約もありますから、全国から姫路に集まるのがなかなか大変なんです」
しかも選手によっては、東京五輪・パラリンピック開催が決まっても、海外遠征は有休を取って試合に出場している。だが、かつてと違って費用の自己負担はない。
「数年前まではみんな、海外遠征費用を稼ぐために仕事をしていたようなものです。でも、好きなことができるだけで幸せでした」
現在、野村証券がスポンサーになり、ようやく日本でも少しずつ練習環境が整ってきている。とはいえ、国の支援が手厚い中国などの強豪は、長期合宿をこなしパラリンピックに臨む。練習不足の日本代表は、リオ大会に出場できなかった。海外勢は背が高く手も長い。東京でのメダル獲得のハードルは高そうだが、それでも日本選手は、勝負の瀬戸際で底力を見せるはずと金木は言う。
「誰もが母国開催のパラリンピックで活躍したいと願う。その6人の執念がコートでがっしりとかみ合った時、思いがけない力を発揮するかもしれません」
金木はセッターでチームの司令塔だ。これまで何があっても笑顔で自らの人生の舵を取ってきたように、コート内の見事なトス裁きで他の選手の能力を引きだし、メダルをぐっと手繰り寄せるに違いない。
(本文・敬称略)
(4月2日 記/バナー写真: 2017年「アジア・オセアニア シッティングバレーボール選手権大会」でイランと対戦)
インタビュー写真撮影:大久保 惠造



