イノベーションで社会問題を解決する
——中国の李克強首相は3月5日の政府活動報告で「大衆による起業・革新が一段と進み、1日当たりの新規設立企業数が1万8000社を超え、市場主体の総数が1億社を超えた」と述べました。
中国政府は起業、イノベーションを後押ししています。政府は政策を動員して起業がしやすい環境づくりを進めていて、それをビジネスチャンスと捉えて起業に挑む若者たちが多くいるのです。それが実際にイノベーションを起こして、経済の発展につながっています。
——日本では規制ががんじがらめで、なかなかイノベーションが生まれないといわれていますが、中国では政府だけでは解決できない社会問題が山積していて、そこにビジネスチャンスがあるという事情もあるようですが。
これは本書には書いていませんが、例えばドローンでモノを農村部に運ぶ物流ビジネスを開発することは大変有意義だと思います。中国では航空は厳しく制限されていますが、それを開放してドローンを飛ばしモノを農村部に届けてあげる。そうすれば、ドローンを運営する民間企業にとってプラスになるし、政府は道路や鉄道などのインフラ整備に過度な投資をしなくて済む、農村部の人たちは都会の人たちと同じように買い物できる。「三方よし」のビジネスモデルになるでしょう。
国家主導の「社会信用システム」構築へ
——中国のモバイル決済は金銭的には「無料」ですが、ユーザーは「個人データ」を対価として提供する仕組みです。アリババなどプラットフォーマーはユーザーから大量の個人信用情報を集めています。ビッグデータは現代の「宝の山」ともいわれていますね。
中国政府は今、「社会信用システム」の構築を進めています。これは本書で書いている「中国新経済」と密接な関係があります。アリペイやウィーチャットペイなどのモバイル決済は、第三者決済サービスと総称され、信用を担保することによって経済の取引を円滑に進めることに成功しました。
プラットフォーマーが信用を担保したことで、そこに個人信用情報が集まるようになり、それを使って新しいビジネスが生まれました。例えばアリババグループ傘下の金融サービス会社、アント・フィナンシャルの信用調査サービス「芝麻信用」(ゴマ信用)です。ゴマ信用は、アリペイの使用状況や過去の返済記録、学歴、職歴、資産状況、交友関係などの個人情報をもとに「信用スコア」(最低350点、最高950点)が算出されるサービスで、高得点のユーザーはホテル、レンタカー、シェア自転車のデポジットが不要になるなどさまざまな特典があります。ちなみに私の信用スコアは687点で、私が利用できる特典は196種類です。
国家主導の社会信用システムの中に、民間のプラットフォーマーを取り込もうという動きも始まっています。具体的には、政府系業界団体が筆頭株主の「百行征信有限公司」(バイハン・クレジット)が2018年2月、中国人民銀行から個人信用調査許可証を公布され、10月から運用を開始したばかりです。
バイハン・クレジットの株式構造は、政府系業界団体が36%、残りの64%はアリババ系、テンセント系など8社の民間信用調査会社がそれぞれ8%ずつ保有しています。中国政府が目指す社会信用システムの構築は、二大プラットフォーマーなど民間を巻き込んで個人信用情報を吸い上げるなど、国家主導の中央集権的モデルで進められようとしているのかもしれません。
