称賛と「それに比べて日本は・・」という自虐

そもそも2冊は12年、16年の総統選を戦う上で「蔡英文の名刺」の役割を果たしていた。そのため、日本の読者にもおおむねポジティブなイメージを植え付けることになった。出版社に届いた読者カード、アマゾンでのレビュー、筆者の周囲の感想から見えてきたのは、蔡氏という高い理想を掲げながらも現実的な決断が下せる、バランス感覚のある一国のリーダーがいることへの羨望(せんぼう)のまなざしと、一般人の感覚を持った政治家を台湾人自らの手で育て、表舞台へと導く市民社会が有効に機能していることへの称賛の声だった。

台湾人からすると、こうした日本人の感想を不思議に思うだろうし、就任1年を迎えた蔡政権の政策実現におけるスピード感のなさや、有権者に不人気の政策という支持率低迷の要素を挙げ、蔡氏への失望感が広がっていると反論する人もいるだろう。しかし、それでも日本人には台湾の方がまだましだと思えるのだ。

台湾人が思う以上に日本では、国民の政治、政治家への不信と失望感は強い。ここしばらく自民党は高い内閣支持率を背景に、もっと議論すべき法案を終始強気な態度と自分たちの都合で国会を通過させてしまった。政治主導だとして、さまざまな規制緩和を進めようとしたのはいいが、その過程で総理の個人的な「お友達」に便宜を図ったのではないかと疑われ、疑念は全く晴れないのだ。

しかし、国民の多くは自民党に対抗する強い野党が必要だと分かっていながら、その他の野党は自民党以上にあてにならないと思っている。確かに台湾人にとって蔡氏は多々問題があるかもしれないが、自分や周囲の人々のために政治家の権力や影響力を無自覚に行使していないし、そのことを疑われないという点において、まだ期待が持てるというわけだ。