トレンドから文化へ成長させることを意識
小路が手掛けるイベントにも、この「懐日」の仕掛けは見え隠れする。今年の7月初めに、華山文化創造園区で開催され、長蛇の列ができた日台のカフェ文化の競演イベント「Culture & Coffee Festival」を振り返ってみる。日本のカフェ文化は数十年をかけて熟成されたのに対し、台湾のカフェ文化はここ10年ほどで急速に発展したにすぎない。日本からは業界のオピニオンリーダーが開くカフェやロースター10店舗が参加し、日本の良質なもの、台湾にないものを提示した。台湾側の参加者はこれに飛びついた。その反面、日本からの参加者たちは、台湾のカフェ店主や愛好家たちの熱意を目の当たりにし、日本では見られない台湾のカフェ文化のパワーに圧倒されることとなった。結果として、日台の参加者同士が互いに学び合う双方向の交流が実現した。
実はこのイベントには、もう一つ大事な仕掛けがあった。台湾からの参加を募ったところ、140もの店舗から申し込みがあった。ビジネスとして考えれば、大きな会場を借りて全ての応募者に参加してもらうのが普通だろう。しかし、小路はあえてそれをせず、参加店舗数を30まで絞った。
「日本からの参加店舗数10軒に対し、台湾からの参加店舗数30軒が黄金比率と考えたのです。台湾からの参加数が多すぎると、日本からの参加店舗が埋没してしまいます。そうなると、日台双方のカフェ文化の相違が浮き彫りにならず、双方向交流に向かいません。イベントの規模が小さくても、文化が先行すればビジネスは後から付いて来ます。一過性の単なるトレンドを追求するのではなく、トレンドから文化へと成長させることを意識しました」
ところが、それは容易なことではない。台湾の人々は熱しやすく冷めやすいと言われる。人口も日本の5分の1ほどで少なく、日本よりも流行が早く終わる。店舗の入れ替わりも激しい。新しい雑誌が創刊されても、2号目以降が続かないことも多い。また、兵役の影響で男子学生の就職時期が遅れたり、身軽に転職を繰り返す土地柄だったりもする。そのような社会的背景も手伝って、台湾ではトレンドをカルチャーに昇華させるには一手間かかる。小路は参加者の体験としての「テイスティング」と「ストーリー」づくりをキーワードに挙げた。
「例えば、イベントでは、参加者がさまざまなコーヒー豆をテイスティングできるカッピングというワークショップを数多く実施しました。コーヒーの甘みや酸味、苦み、余韻など味や香りの違いから自分の好きなタイプのコーヒー豆を見つけてもらいます。この経験を基に、今度は参加者自らが街でカフェ巡りをし、自分のお気に入りの豆を扱う店を探すよう促します。こちらの提案にイベント参加者が共感し、納得し、やがて自らが発信者になっていく一連のストーリーがカルチャーを醸成していくと考えます」
