台湾本場の味を超えたい!
平岡さんは2014年にTearsを閉め、初めての台南へ旅立った。目の前に、本で見てきた料理が次々と現れ、日本で試作した自分の味を思い出しながら、調理の時に微調整すべきポイントを頭に叩き込んだ。
閉めたTearsからほど近い場所に、築105年の物件が見つかった。町屋造りの雰囲気抜群の店舗だ。新しい店にぴったりと思い、16年の年末に「微風台南」としてオープンした。
「なんで店名が微風台南になったのか、ほとんどその理由を人に言ったことがないのです」
最近、日本での台湾ブームから、台南に火がつき、初めて訪れるお客さんから店名の由来をよく聞かれるようになった。私も、お店の名前に台南があったから、気になって訪ねた一人だ。実は、命名したのも、台南の穗婷さんだった。
「台北に有名な微風広場(Breeze)があるけれど、台南にないから、先に付ければいいじゃない」ということで決まったとか。なかなかのネーミングセンスだ。
ただし、店のネームカードには、微風台南の下に、小さく「TEARSⅡ」と入っている。TEARSの次の店だから、と平岡さんが当初考えていた店名だった。平岡さんの店主としてのこだわりが透けて見える。
いろいろと平岡さんに話を聞いていと、長身のすらりとした美人女性がテキパキと来客の応対をしていた。
ドリンクやスイーツと接客を担当している妻の美保さんだ。
「ちょっとこの張り紙見てください」
素敵な美人の美保さんに見とれていた私に、お座敷の壁際の方に平岡さんは連れていった。 厨房(ちゅうぼう)近くの鴨居に中国語で「不好意思,姐姐在火大・・・」と書かれた紙がちょこんと貼られていた。「ごめんなさい、妻の機嫌は悪い」という意味だ。
意味が分からない私に、平岡さんは少し照れくさそうに話し始めた。
「ぼくは、台湾人のいい加減さとか、怒られ方までコピーしたいのです」
台湾の屋台は大抵家族経営だ。料理をしながら、夫婦や親子で喧嘩をしている光景をよく見かける。そんな風景も台湾らしさの一つとして、コピーしたいのだという。
きちんと盛り付けようとする美保さんを、「もっといい加減に盛り付けて」とわざと大きな声で叱りつけ、美保さんも反論しているのだという。厨房の中で繰り広げられられる夫婦の口論の声を聞いてもらい、お客さんに「台湾」を感じてもらうというわけだ。
台湾人の気持ちになって作らなければ、本当の台湾の味にならないというのが持論の平岡さん。その思いはしっかりと食べる人たちに伝わっているようだ。
そこまでこだわる平岡さんに対し、美保さんはついこの間まで、一度も台湾を訪れたことがなかった。2017年6月に初めての台湾旅行に出発した。店で食べる台湾料理が美保さんにとっての台湾料理の味。初めての台湾で、本場の台湾料理を食べた時に、「あ、お店の味と同じだわ」と感動したそうだ。
滞在していた約2時間の間、ひっきりなしに学生らしき台湾人が出入りしていた。みんな手慣れた様子で注文し、わが家のような感覚でゆったりと過ごしている。学生たちにとって、微風台南は故郷の味を食べることができ、平岡さんご夫妻が、親のように温かく迎え入れ、最高のオアシスになっている。
「最終的に、台湾の本場の味を超えたと言われたい」
台湾人の温かさや、いい加減さ、ユニークさなど、いいも悪いも含め、台湾を極めたいと思っている平岡さん。現在は3カ月に1回のペースで、台湾を訪れ、台南をはじめとして、各地の料理を食べ、メニューの研究をしている。もちろん、店を開くきっかけとなった穂婷さんとの親交も続いている。
平岡さんがいる限り、微風台南の味はこれからも進化していくに違いない。日本と台湾の間に、素敵な「食」の掛け橋が架かることになりそうだ。
バナー写真=「微風台南」の店舗前に並ぶ平岡さん夫妻(撮影:一青 妙)

