権力拡大の副作用:森友・加計問題
全般的に首相は安定的に政権を運営してきた。しかし、首相の権力の強大化は副作用も伴うことになった。2017年2月には森友学園問題が発覚、3月以降は加計学園の問題が注目を集めた。両問題では学園の経営者が首相あるいはその周辺と近い関係を持っていたために、優遇的な扱いを受けたのではないか、あるいは官僚が首相の意向を「忖度」したのではないかという疑念を多くの人が抱くことになった。さらに森友学園の問題では、国有地払い下げ決定の決済文書が改ざんされるという不祥事すら起きてしまった。

首相は自らの関与を否定し続けている。しかしながら、説明に満足している国民は少ない。7月の読売新聞の世論調査では、77%もの回答者が安倍首相の説明に納得していないと答えている。総裁選における首相の党員票の獲得率が55%に止まった背景には、この二つの問題がある。
二つの問題がここまで注目を集めることになった背景に、首相の権力の拡大があることは間違いない。例えば加計学園の問題は、首相自身が扱う戦略特区という政策を巡って起きてしまった。
3選後の課題は山積
3選を果たした安倍晋三首相はどのような政策課題に取り組むのだろうか。
当面の課題は外国人労働者の受け入れを拡大するため、出入国管理法及び難民認定法改正案などを成立させ、「特定技能」という外国人在留資格を新設することである。法案が成立すれば、農業、漁業、建設業、外食業、介護などの業種で外国人労働者の受け入れが進むと考えられている。
より中期的な課題としては、社会福祉・労働政策に引き続き取り組むはずである。首相は総裁選中に、内閣改造後に「全世代型社会保障改革」に取り組むと表明している(*4)。 その一つとして、高齢者、より具体的には65歳以上の人々の雇用促進に取り組む考えを示している。未来投資会議を中心に具体案が立案される見込みである。
もう一つは現役世代への社会保障の拡大である。安倍首相は2017年9月の衆議院解散の際、消費税率を引き上げることで得られる増収分の一部を教育無償化のために使う考えを示した。その後、人生100年時代構想会議が発足し、18年6月に無償化の具体的方針を定めた。
安倍内閣はこの方針に沿って、今後は幼児教育および高等教育の大幅な無償化に踏み切る予定である。例えば、19年10月から3歳から5歳児までの全面無償化、20年4月からは低所得者層への高等教育の無償化を実施する予定である。
対外経済政策で特に重要なのは米国との日米物品協定(TAG)交渉である。18年9月26日に日米首脳会議で安倍首相とトランプ大統領が合意し、今後は茂木経済財政担当相とライトハイザーUSTR代表との間で主に物品に関する関税引き下げ交渉が行われることになる。
トランプ大統領は日本を含め、米国が各国と抱える貿易赤字を問題視してきた(2017年の日本との貿易赤字は688億ドル)。遅くとも5月以降、米国が輸入する自動車に関税をかける考えを示してきた。日米首脳はTAG交渉期間中、自動車関税に手を付けないことで合意しており、日本は当面、自動車に関税を掛けられることを回避できた。ただ、今後、米国側が厳しい要求を行う場合、安倍首相はかなりのエネルギーを費消しなくてはならない恐れがある。
さらに、19年はさまざまな重要な儀式、国際会議、政治日程が目白押しである。 4月30日に天皇陛下が退位され、5月1日に皇太子殿下が新天皇に即位し、10月には即位の礼が行われる。6月にはG20首脳会議が大阪で、8月にはTICAD(アフリカ開発会議)が横浜で開催される。 首相は一連の儀式、会議を滞りなく行わなくてはならない。
この間に4月には統一地方選挙、夏には参議院議員選挙が行われ、さらに10月には消費税率が引き上げられる予定である。
憲法改正:内閣支持率高まれば発議も
最後に安倍首相が熱意を示してきた憲法改正を試みる可能性について検討したい。
すでに自民党は、憲法で自衛隊を位置付けることを含め4つの改憲案をまとめている。首相は総裁選以前、臨時国会に自民党としての改憲案を提出することを表明していた。しかし、臨時国会では自民党としての考えを示すにとどめ、改憲案の正式な提案は見送る方針を示している。
問題は、首相が近い将来に憲法の改正の国会発議を目指すのかということである。
ここで、改憲の発議と参議院議員選挙の関係が問題となる。現在、いわゆる「改憲勢力」、すなわち、改憲に理解を示す議員が衆参両院で3分の2以上の議席を占めている。参院選後の議席配分は不透明である。このため、首相は3分の2以上の議席を確保している間に改憲を目指そうとするかもしれない。この場合、来年の通常国会で発議し、参院選は改憲の国民投票とのダブル選挙になる可能性がある。
ただ、首相が9条改正を目指す場合、世論の一部から強い反発を招く恐れがあり、国民投票の行方は不透明である。また、参院選で不利に働く可能性がある。それでも19年中の発議の可能性を否定できないのは、選挙後に与党が参議院で過半数議席を割り込むほど負けるということはなかなか考えづらいからである。
また、内閣支持率も発議の決定に大きな影響を及ぼす。支持率が高ければ、発議の可能性は高まる。
自民党の役員人事から見て、安倍首相が憲法改正を重要な課題として考えていることは間違いない。支持率の動向が参院選に及ぼす可能性を考えながら、発議を目指すのか判断することになるだろう。
バナー写真:自民党総裁選で3選を果たし、総裁室の椅子に座る安倍晋三首相=2018年9月20日、東京・永田町の同党本部(時事)
