文化都市台南のシンボル「台南市美術館」
台南では「文化都市」としての環境整備が進んでいる。その中心となるのが、昨年秋に市のランドマークとも言える孔子廟のすぐ近くにオープンした「台南市美術館」である。
台南市美術館は「1館」(近現代館)と「2館」(当代館)の2棟で構成されており、両館の距離は徒歩で5分ほど。街歩きをしながら移動でき、街全体の文化性を高める工夫が凝らされている。
新しく建設された2館は、積み木を重ねたような建物の上部に台南市の鳳凰花をモチーフにした五角形の屋根だ。大きな吹き抜け構造で屋根からは光がふんだんに注がれる工夫が施されていた。エレベーターがガラス天井へと続くように中心を貫き、圧倒的な開放感と、明るさを持ち合わせている。台南市の気候と風土に合わせ、日本を代表する建築家・坂茂が設計したものだった。
実は自分の家を建て替える際、坂茂事務所を訪れ、設計図を書いてもらおうとした経験がある。思えば無謀なお願いだったかもしれないが、もしかしたら、台南市美術館のような家が建っていたかもしれないと考えると、なんとも不思議な気分になった。
にぎわっていたのは、2階の奥で見つけた「南薫藝韻」の常設展示室だった。台湾の現代アートを開拓し、台南の景色を多く描いてきた陳澄波、郭柏川、許武勇、沈哲哉の作品を展示しており、大変見応えがあった。
スタイリッシュなミュージアムショップや、広々としたテラスを持つカフェも併設されている。カフェにはコーヒー豆の横に私の著書「台南―日本に出会える街」(新潮社)の台湾版「什麼時候去台南」(天下文化)が飾られているのを見つけ、ちょっとうれしくなった。
南門路と友愛街が交差するY字路には1館がある。1館は、1931年の日本統治時代に建てられた旧台南警察署庁舎をリノベーションしたものだ。
庁舎部分の外観は、パターン化された幾何学的な装飾が施されたアール・デコ様式となっており、外壁には素焼きレンガが用いられ、落ち着いた雰囲気だ。当時の設計者は、台南の林百貨店や台北の元・台湾総督府専売局松山煙草工場(現・松山文創園区)などと同じ、石川県出身の梅澤捨次郎だった。
2010年以降の県市合併により警察署が別の場所に移転した後、庁舎は長らく利用されずに放置されてきた。来館中の台南生まれの20代後半の女性は「子供の頃の記憶では、このあたり一帯は暗くて、いい雰囲気の場所ではなかった」と言い、美術館に生まれ変わったことを喜んでいた。
新旧の建物は中庭を囲んで連結されている。中庭の中心には、古いガジュマルが堂々と立っており、周囲には一息付くための机と椅子が並べられていた。椅子に腰掛けながら庁舎を眺めていたら、静かな空間からなかなか離れられなくなった。台南市美術館の両館はいずれも建造物自体が展示物となっていて、新旧のコントラストが面白い。美術館として展示内容が今後充実することを期待したい。


