休業する映画館、ゴールデン街、書店、百貨店

歌舞伎町は夜にネオンが灯る繁華街だが、普段なら昼間も寂れてはいない。国内や外国から来る観光客、飲食店の客引き、風俗業のスカウト、はたまたあちこち女に声をかけるナンパ師など、昼間も常に賑わっている。新しいランドマークとも言える大型映画館「TOHOシネマズ新宿」ができてからは更に人が集まり、映画館の後ろから頭を覗かせているゴジラ像が多くの観光客を惹きつけ、より一層賑わいが増した。ところが今映画館はもちろん休業中で、映画館の一階にある飲食店も軒並み閉店している。その近くに密集しているカラオケやゲーセン、パチンコなどもひっそり静まり返っている。人通りが全くないわけではないが、何とも寂れた光景だった。

新宿区役所が位置する区役所通り、これもまた往来が少ない。区役所はいつも通り業務を行っており、近くでは警備員や駐車場のスタッフが勤務している。みんなマスクをしていた。区役所通りからゴールデン街へ入る。この街は数十年の歴史を持つ繁華街で、約2000坪しかない狭いエリアには木造の長屋がぎっしり並び、200軒に及ぶ飲み屋が所狭しと集まって営業している。かつては青線という非合法の売春地帯だったが、のちに女装コミュニティの拠点や、文化人が酒を酌み交わしながら文化や芸術を議論する場所となった。近年は欧米系の観光客が多く、人気ドラマ『深夜食堂』の舞台にもなっている。やはり夜に栄えるこの街は普段でも昼間は大抵寂れているが、ざっと見回っても臨時休業を知らせる貼り紙が貼り出されている店がちらほら。夜になっても平時のように賑わうわけにはいかないだろう。

ゴールデン街のはずれにふと現れる石の階(きざはし)を上っていくと、花園神社だった。これは新宿エリアを守っている神社で、私も何度か鮮やかな朱色の拝殿へ参拝に来たことがある。前回来たのは約2カ月前で、新宿二丁目を舞台とする新刊小説『ポラリスが降り注ぐ夜』がよく売れるようにと祈りを捧げたのだ。この神社は花期になると桜が満開し、多くの花見客が集まってくる。たまに骨董市が開かれていたりもする。夏の盆踊りや11月の大酉祭も屋台と人出でいつも押し合いへし合いしていて、とても賑わっていた。今は桜が咲いていない。桜の木は緑のままで、境内も人が少なく、観光客と思しき外国人が何人か写真を撮っていただけだった。販売時間が過ぎたのか、お守りやおみくじを販売する社務所もまた静寂に包まれていた。

花園神社の横の通路から出ると目の前は靖国通りで、道を渡って右折して少し歩くと映画館「新宿ピカデリー」に着く。映画館は休業中で、壁に貼り出された映画のポスターだけが空しく存在しない客を呼び込んでいる。一階のドアは開いていてホールを通り抜けられるようになっている。隣の無印良品は営業している。映画館を通り抜けると馴染み深いアニメグッズ専門店「アニメイト」と、日本屈指の書店「紀伊國屋書店新宿本店」があるが、どちらも固くシャッターを閉ざしている。紀伊國屋書店の地下の名店街は通り抜けられるようになっているが、骨董や珍品を売っている店は軒並みシャッターを下ろしていて、営業しているのは数軒のレストランだけだった。平時のような賑わいはもちろんないが、意外にもお客さんが入っていた。

休業中の紀伊國屋書店新宿本店(筆者撮影)
休業中の紀伊國屋書店新宿本店(筆者撮影)
静寂に包まれる紀伊國屋ビル地下名店街(筆者撮影)
静寂に包まれる紀伊國屋ビル地下名店街(筆者撮影)

地下の名店街を通って地上へ戻ると新宿通りに出た。新宿通りを東へ直行する。途中で目に入る伊勢丹百貨店やマルイ、ビックロなどは全てシャッターを下ろしていた。バスは通常通り運行しているが、車内にも人影があまりなかった。

休業中のビックロ(筆者撮影)
休業中のビックロ(筆者撮影)