2026年のマグロ初競りで、これまで史上最高額だった1本3億3360万円を大きく上回り、一番マグロに5億1030万円の値が付いた。なぜ1匹の魚をめぐり、すさまじい攻防が繰り広げられ、これほどまでに高騰するのか?
十数年で100倍以上の5億超え
東京・豊洲市場(江東区)で1月5日、新年恒例のマグロ初競りが開かれ、青森・大間産のクロマグロに5億1030万円の史上最高額が付いた。重量は234キロで、1キロ当たり210万円という超破格値である。縁起物とされる一番マグロ(最高値で落札されたマグロ)を手にしたのは、すしチェーン「すしざんまい」を展開する喜代村(木村清社長)。これまでの最高値だった2019年の3億3360万円(278キロ)も、同社が競り落としていた。
初競り一番マグロは、築地市場時代の2000年まで1000万円に満たなかった。21世紀初というご祝儀相場だった2001年に2020万円を記録したものの、しばらく目立った高値はなかったが、2010年代に入って上昇。13年には222キロが1億5540万円(キロ70万円)と初めて億の大台に乗った。この時に落札したのも喜代村で、木村社長の両手を広げたポーズ、「マグロ大王」の異名は国内外で知られるようになる。
3億円に到達した19年は、東京都中央卸売市場が築地から豊洲へ移転し、初めて迎えた初競りで超ご祝儀相場だった。キロ120万円という途方もない値段は当分破られないと思われたが、物価上昇やインバウンド消費の拡大が顕著となった今年、大記録がたたき出された。
競り値は急上昇、5億円の壁を突破
競り開始時刻の午前5時10分が近づくと、国産のクロマグロが並ぶ周辺はすし詰め状態。喜代村のほか、昨年まで5年連続で一番マグロを落札した豊洲・仲卸「やま幸」関係者らを含め、多くの人だかりができて熱気を帯びていた。
市場関係者のあいさつの後に手締めが行われ、「チャリンチャリン」という鐘の音がしばらく鳴り響き、一番マグロの初競りがスタート。1キロ当たりの値を指で示す「手ヤリ」を用い、通常は100円単位で競り上げるのだが、初競り一番は桁外れの10万円単位で手ヤリが飛び交い、青天井のごとく急上昇していく。木村社長はこの瞬間を「あれあれ、あれーという(間に値が上がり)ジェットコースターのようなものだった」と振り返った。
それほど白熱したのには訳がある。すし店「鮨 銀座おのでら」や高級日本料理店「なだ万」などを展開する「ONODERA GROUP(オノデラグループ)」から一任されたやま幸も、6連覇を狙っていたからだ。山口幸隆社長は「マグロの神」と称されるほどの人物。2025年には、過去2番目の2億700万円で一番マグロを競り落としていた。
やま幸は「キロ200万円×243キロ=4億8600万円」、5億円突入を前に手やりをストップ。直後に「キロ210万円」を挙げた喜代村が、一進一退の勝負を制したのだ。山口社長は時事通信のインタビューに対し、「喜代村とは何度も競り合ってきたが、すごく悲しかった。(オノデラグループの)予算をオーバーしても自分が出すつもりだったが、相手があることなのでしょうがない」と肩を落としていた。オノデラグループでも一番マグロをお披露目する準備を整えていたというから、その落胆は大きかっただろう。
二番マグロの価格は65分の1
両者が競った結果、マグロ本来の価値を大きく超える大胆な金額が、新春の景気のいいニュースとして伝えられた。
喜代村の一番マグロ落札は6年ぶりだが、これまでも「毎年、自分が見て最高のマグロを買っていた」(木村社長)と自負する。ただこの間には、「新型コロナや一昨年末には大間の漁師が亡くなった(*1)こともあって……」と、一番マグロへのこだわりを抑える配慮があったことも示唆している。久々に争奪戦に参加したのも「今年はマグロがたくさん競り場に並んだが、中でも一番いいマグロだった」と説明した。
実際、直前の4日に大間で水揚げされた320キロを超えるマグロが、「最高値になるのではないか」とみる向きも多かったようだが、豊洲市場関係者の目利きは違っていた。300キロ以上の超大型は、骨が大きいなど扱いにくい面もあり、選ばれたのは「形がふっくらしていて脂の乗りもいい」と高く評価された243キロだった。
一方、初競り二番のマグロは、同じく大間産の「174キロ×4万5000円=783万円」。普段の市場ではめったにお目にかかれない値段ではあるものの、一番の65分の1と大きな開きがあり、ほとんど話題にならなかった。一番へのこだわりによる超高値はまさに特別で、直後のメディア露出を考えると「2番ではだめ」なのだ。
海外メディアやインバウンドも意識した広報戦略
木村社長は一番マグロの提供について、「物価高は入れないで通常通り、赤身一貫398円、中トロ498円、大トロ598円(いずれも税抜き)」といった大盤振る舞いを宣言。直接的には大幅な赤字になるため、「これから資金繰りが大変。一生懸命働かなければならない」とこぼしつつ、「縁起物のマグロを食べて、一人でも多くの人に元気になってもらいたい」と、景気付けを強調した。
ただ、新年早々の仕事始めの朝から、全国のニュースや新聞で大きく報じられる宣伝効果は値段以上の価値があるということだろう。その証拠に、一番マグロが築地場外市場のすしざんまい本店で披露された朝7時過ぎには、すでに「5億1030万円」を大きく打ち出す垂れ幕が並んでいた。しかも、インバウンドに人気が高く、2025年には米国ロサンゼルスにも進出した同店だけに英語版も用意。その商魂たくましさには脱帽である。現場には海外メディアの姿もあり、築地場外には訪日客が連日押し寄せることを考えれば、一番マグロの価値は計り知れない。
2026年は喜代村に軍配が上がったが、今後も「やま幸・オノデラグループ」に加え、伏兵の参戦なども含め、一番マグロを巡る争いは激化しそうな気配だ。「一番ウニ」も高騰しており、今年の初競りでは北海道産のムラサキウニ400グラムに3500万円の超破格値が付いている。マグロ1本10億円といった時代に突入する可能性も否定できない。
バナー写真:築地・すしざんまい本店で、5億円超の一番マグロと木村社長に群がる取材陣 AFP=時事
(*1) ^ 2019年の一番マグロを釣り上げた漁師が、2024年末に転覆事故に遭い、遺体で発見された





