台湾スタイルに変えて性格が明るくなった
こうした台湾の光景は、外国人の目には時として奇特に映るが、地元の人たちにとっては当たり前のものである。その中には、実は数多くの生活の知恵が隠れている。それは外国からの旅人に、固定観念を見つめ直し、より自分の気質に合ったライフスタイルを模索するきっかけを与えてくれる。筆者自身も台湾に来て強烈なカルチャーショックを味わった一人だ。
筆者は14歳頃から外出時には必ずスーツを身にまとい、ネクタイもきっちり締めて出掛けていた。中学は3年間ほぼ不登校で、高校には進学せず、その後放送大学に入り、卒業する頃までこの習慣を貫いた。
きっかけは東京新宿・歌舞伎町近くの公園をぶらついているとき、フリーマーケットで上下そろったスーツが500円で売っているのを見掛けたことだった。ネクタイも一本10円で売られていた。その場で一着の白いスーツとワイシャツと赤いネクタイを買い、近くのトイレで着替えた。再び雑踏に出ると、世界が一変して見えた。それまでは幼さの残る顔立ちをした自分が平日に出歩いていることにバツの悪さを感じていたが、スーツとネクタイに身を固めることで、自分が大手を振って外を歩ける権利を得たように思え、気持ちが高ぶった。当初フリマで手に入れたスーツはあまりまともな色でなく、緑のもあればピンクのもあり、サイズもぶかぶかだったりしたが、それ以来というもの筆者はいっぱしの大人になった気分で、連日胸を張って、躍るように、東京各地を歩き回った。目的もなく、ひたすら足の向くままに。
その後10年ほどは近所のスーパーへもスーツを着ていく暮らしを続けたが、奄美・沖縄への旅をきっかけにスタイルをまたがらりと変えた。さとうきび畑や古民家の並ぶ集落を散策し、島の人たちの醸し出す温かくてほがらかな空気感に触れる中で、初めて背広を「うっとおしい」と感じた。
沖縄の人々が着ているカラフルで風通しの良さそうなシャツが強く印象に残った筆者は、東京に帰るとすぐ「かりゆしウェア」と呼ばれる沖縄テイストのワイシャツを10枚以上ネットで取り寄せ、下はジーンズにはき替えた。スーツは全て段ボールに詰めてお蔵入りにした。「脱皮」を遂げて町に繰り出すと、その身軽さに快感を覚えた。真冬でもかたくなに上着を羽織らず、かりゆしウェア一枚で過ごした。
台南へ移住したのには幾つか理由があるが、旅行でこの町を訪れたとき、「のんびりしていて、生活を楽しんでいる人が多いな」と感じたこともその一つだった。暮らし始めてからますますその思いを強くした。まもなく地元の人たちのラフさに感化され、ジーンズ、靴下、革靴を脱ぎ捨て、一年中かりゆしウェアと短パンと「軽拖仔」(チントア)すなわちサンダルで過ごすようになった。こういうスタイルをする事には単に涼しくて快適という点以外にも、いくつかのメリットがあった。洗濯が楽で、夜シャワーを浴びるときにその日着たものをもみ洗いするだけで済む。出かける前コーディネートに悩むこともない。それから、何にも増して、性格が明るくなった。社交的になり、さまざまな催しに顔を出して人と話すようになった。薄着でいると他人との心理的な距離感も縮まる気がする。
