アニメソングを歌いながら日本語を学ぶ

私が辿(たど)ってきた言語的成長の道程にも、常にオタク的趣味の影響があった。

日本語教師のいない台湾の片田舎で日本語を独学し始めたのは、中学二年生の時だった。最初に覚えた仮名文字は平仮名ではなく、片仮名だった。何故なら、ポケモンの名前が片仮名だからだ。中学生なのでそれなりに英語もできるようになっていたので、例えば伝説のポケモン「フリーザー」「サンダー」「ファイヤー」のもととなる英単語「freeze」「thunder」「fire」は当然知っていた。つまり英語から片仮名の発音を逆算して覚えていったのだ。英語の「-er」がしばしば日本語の長音になるといった音韻的な法則も、その時からなんとなく気付いていた。

平仮名を覚えたのは主にアニメソングのおかげだった。デジタルネイティブ世代らしくインターネットでアルファベットつきの五十音表を探してきて、ポケモンのオープニングテーマソングの動画も落として再生し、動画に表示される歌詞を五十音表を参照しながらWordに手打ちで入力し、その下にアルファベットも添える、といった作業をした。歌詞に漢字が出てくると中国語で入力した。そしてそれをプリントアウトし、歌を歌いながら仮名文字を頭に叩き込んだ。「君」「好き」「少年」「物語」みたいな漢字の日本語読みもそのようにして覚えた。その時期からアニメは中国語吹替ではなく日本語音声で観るようになり、日本語の発音の美しさにうっとりしていた。

日本語を学び始めた初期に手打ちしたアニメソングの歌詞。よく見れば間違いも多い。仮名文字はコードの関係で今のパソコンでは表示できない(筆者撮影)
日本語を学び始めた初期に手打ちしたアニメソングの歌詞。よく見れば間違いも多い。仮名文字はコードの関係で今のパソコンでは表示できない(筆者撮影)

少し習熟度が上がると、今度は『名探偵コナン』『犬夜叉』『ヒカルの碁』の曲にも手を広げた。倉木麻衣「Time after time ~花舞う街で~」やV6「CHANGE THE WORLD」、dream「Get Over」などがそんな時期に出会った、何とも思い出深い名曲の数々である。歌詞の意味が分からなくても仮名文字の発音が分かれば問題なく歌えるという、そのこと自体がとても不思議で、まだ英語力の方が高かった時期にもかかわらず英語の曲はほとんど歌えず、日本語の曲ばかり歌っていた。「翼」「羽ばたく」「支える」「巡り逢う」「霞む」「告げる」「絶やす」などの言葉と漢字はそれらの曲で覚えた。文法力の割に語彙力が異常に高かったのである。地頭はいい方なので誰かに教えられなくても、例えば「霞む」という単語を覚えるとすぐポケモンの登場人物の「カスミ」を連想するなど、自分の中で言語的な体系を作っていった。

本格的な「オタクコンテンツ」、例えば『灼眼のシャナ』『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』のアニメに触れたのは暫(しばら)く後のことで、高校入学に伴って都会で一人暮らしを始めてからのことだった。それらのコンテンツからも多大な刺激を受けた。学校の勉強に並行して週一か週二で塾に通い、我流ではない本格的な日本語教育を受け始めたのもその頃で、(クラスメイトからオタクだと気味悪がられながらも)アニメコンテンツにどっぷり浸(つ)かっていたことが学習効果を大きく上げたと思われる。大学に入ってからはそれらのアニメを観ながら気に入った台詞(せりふ)を書き取るという練習を繰り返すようになり、聞く力と書く力がかなり養われた。

オタクなので当然秋葉原のメイドカフェにお邪魔したことがある。オムライスに絵を描いてもらった(筆者撮影)
オタクなので当然秋葉原のメイドカフェにお邪魔したことがある。オムライスに絵を描いてもらった(筆者撮影)