紙でできた「高級車」「パソコン」「スマホ」

「新興糊紙店」。“紙紮”“糊紙”とも呼ばれる伝統的紙工芸の老舗だ。

華人の祭礼文化として独特の進化を遂げた台湾伝統紙工芸は、古代中国で死者を埋葬する際の副葬品が起源と言われ、兵馬をかたどった中国・西安の「兵馬俑」がよく知られる。時代が経るにしたがって副葬する陶器は紙に変化し、「使用人」「家」「乗り物」「衣服」「日用品」「お金」を模した紙工芸を燃やすことで、あの世の死者が豊かで不自由なく暮らし、子孫らの発展と幸福を守ってくれると信じられてきた。最近では西洋の城のような邸宅から高級車、パソコン、スマートフォンや充電器まである。 

街のお店で市販される一般的な“紙紮”は印刷物を組み立てた廉価なものだが、ここ「新興糊紙店」で作られるのは、購入者の要望に合わせて細部にいたるまで手仕事を施した「オートクチュール」だ。実際、新興糊紙店の作品は、2016年及び2019年にフランス・パリの美術館にも招かれ、フランス人を驚嘆させた。

2019年10月にフランスの美術館で開催された台湾紙工芸展のポスター(新興糊紙文化提供)
2019年10月にフランスの美術館で開催された台湾紙工芸展のポスター(新興糊紙文化提供)

「新興糊紙店」を開いたのは、張徐沛さん。台北の下町、大龍峒にて清朝光緒のころ創立した150年の老舗「茂興齋」糊紙店の創立者・張根乞さんから数えて4代目にあたる。幼いころから職人に囲まれ、学校から帰れば兄と共にハサミと紙を手に仕事を手伝った張徐沛さんが、本格的に家業を始めたのが13歳。1990年に独立して店を開いた当時、辺り一帯には草地が広がるばかりだった。

一年で最も忙しいのは旧暦7月の鬼月である。日本でいうお盆のようなもので、死者の魂が現世に帰ってくる時期に合わせて行われる中元普渡の盛大な拜拜(パイパイ=お祈り)に合わせ、多くの注文が入る。華麗さが足りなければその場で感覚的にどんどん足して行くのは、日本の「わびさび」といった引き算美学とは真逆の、台湾伝統の「足し算的美学」といえそうだ。

いくつかの工房で作られたものを、現場に持ち込んで組み合わせる(新興糊紙文化提供)
いくつかの工房で作られたものを、現場に持ち込んで組み合わせる(新興糊紙文化提供)

釣りが好きな故人のために釣り道具を、車好きの故人のためにフェラーリをと様々な注文がはいる。「故人が夢に出てきて、あれを作ってほしいというので」と、お店に現れるお客さんもいる。