「今、台湾政治がおもしろい」の波紋
私個人の研究史的に言うと、この論文で初めて台湾の政治体制を権威主義体制(authoritarian regime)と位置付けてその性格を提示したのであった。もちろんまだまだ肉付けが弱くて痩せた議論だったが、自身のその後の議論の出発点となった。この事はまた後に記そう。この論文の冒頭に私は「私の印象では、台湾の社会は選挙ごとにひと皮むく剥(む)くようにして変化している。台湾の社会の奥底に沸騰するエネルギーが、選挙という非軍事化な祭典化された『内戦』を経過することによって、この成長期の社会は、いとも簡単になにか向かって脱皮を遂げていくように見えるのだ。台湾の社会が、70年代後半以来転換期に入っているからだろう」と述べ、続けて「だから、今、台湾の政治がおもしろい」と書いた。前記の「動いている」は「転換期」として説明されている。「選挙という非軍事化な祭典化された『内戦』」というフレーズは、京極純一先生の『日本の政治』で出会ったフレーズを念頭に置いたものだった。
この「おもしろい」は、もっと関心が持たれて良い、興味深い変化が台湾政治に起こっているのですよ、ということを意図的にキャッチーな表現で述べたもので、『世界』の編集部も修正を求めてはこなかった。しかし、しばらくしてこの言い方がちょっとした波紋を引き起こしていることを間接的に知った。伝えてきたのは多分在日台湾メディア関係者かあるいは消息通の台湾留学生だったのではないかと思う。具体的な文言は覚えていないのだが、「おもしろいとは何事だ。われわれは命を懸けてやっているのだ」との趣旨の反発で、一方は台湾独立派、もう一方は在日の台湾政治警察関係者という対局にある立場の人たちだったという。上記のニュアンスが了解してもらえなかったわけであるが、独立派の人の反発はさもありなんと感じたが、政治警察の人も同じような反発をしたというのは、一種のブラック・ユーモアを感じた。

