日本のロボットは世界トップクラスの水準を誇る。中でも「人型ロボット」は、日本が大きくリードする開発分野だ。第一人者・早稲田大学の高西淳夫教授に、人型ロボットの進化と今後の可能性について語ってもらった。
——日本の人型ロボット(*1)研究の歴史は古いですね。
「私の指導教授だった故・加藤一郎先生(*2)が始めたのが、まさに人型ロボットの研究でした。人型ロボットの研究とは別に、コンピューター技術の台頭や機械の自動化といった産業の大きな流れがありました。その中で、工場の中で機能する機械として、インダストリアルロボットというカテゴリー名がついた機械が米国で販売され大成功しました。本来ロボットとは人型ロボットを指していたのですが、その大成功とともに、ロボットという言葉が広く用いられるようになる一方で、人型であるというロボットの意味合いが徐々に薄れてしまいました。世の中の理解がそういう傾向でしたから、加藤先生はあえて『人型』という言葉を形容詞のように付けて研究を始めました。
しかし、当初は研究テーマに『ロボット』と付くとSFの話といった認識から、子どものたわ言みたいな機械を作っているのではないかと思われ、研究費が付きにくかったようです。当時の資料の中には、『ロボット』ではなく、『人工の手』や『人口の足』の研究などと書いた研究費の申請書が残っています」
目標は「人」。永遠に到達できないと思うから、やめられなくなる。
——日本の研究者はなぜ人型ロボットを作るのでしょうか。
「人型ロボット研究の最大の問題、あるいは宿命というのは、『人という明確な目標がある』ということです。スタスタ歩いて、あるいは走って、さらには五輪やW杯に出るような素晴らしい運動もするし、片や言語を獲得して自在にしゃべり、文字を発明して脳に高度の機能を持つ——。こうした素晴らしい人間を目標としていることです。ロボットに人のまねをさせようとすればするほど、永遠にゴールに行きつけないと痛感します。そのために、やめられなくなってしまいます。
ただ、進化はしています。加藤先生が、WABOT-1という全身型の人型ロボットを作った時、2足歩行の部分の機能は1歩が45秒ほどかかっていました。歩幅も10cmぐらいでした。ところが今は、それこそランニングができる2足歩行ロボットもあります。高西研究室のロボットKOBIANの歩行速度は、ほぼ人と同じで1歩1秒を切ります。歩幅も最大で40cm。膝を伸ばして人と同じような形で歩けるロボットになったと言えると思います。
コンピューターの発達のおかげで、最近はロボットも画像処理などの高度な機能を持てるようになり、人とコミュニケーションを取るということも含めて、高機能になりつつあると思います」
——宗教などの社会的影響から、日本と欧米でロボット研究の姿勢・傾向は異なりますか。
「昨年、講演などのためドイツやオランダに行きましたが、先方から、『技術の話は半分ぐらいにして、残りの半分は日本だけなぜこんなに人型ロボットが多いのかについて話してくれ』と言われました。やはり向こうでは、『人を創るといった神と同じ行為をやってはいけない』というキリスト教の影響が根底にあり、人的な形をした自動機械に対して、まだ根底的に抵抗感があるなと思いました。
欧州でも現在は、人型ロボットを使って人を解明しようと、道具としての人型ロボットであれば研究のファンドが付くようになってきています。ただ、人と同様のサイズで、人のように2足歩行できるようなロボットは、欧州ではまだ技術的に難しい状況です。そういうものについては、早稲田大学のほうに話が来て共同研究をやっています」



