「楽しい10連休を過ごすために」お薦めの本

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これだけ長い休みだからこそ、手にとりたい本がある。旅先で読むもよし、書斎にこもって読むもよし。本サイト「ニッポンの書棚」では、毎月、多くの書評をお届けしている。いずれも評者お薦めの作品ばかりである。人生を豊かにする読書の時間を――。とくに選りすぐりの10作を紹介しよう。

この中からお気に入りの書籍が見つかれば、まず本サイトの書評を読んでみてほしい。読書案内として最適であり、実際にお目当ての本を手に取ったとき、スムーズにその著者が描く世界に入っていけると思う。

 

●組織論、リーダー論としても読めるスポーツノンフィクションの秀作―-

1,『エディー・ウォーズ』生島淳著

2015年ラグビーW杯で強豪南アフリカを破り、世界を驚かせた日本代表。指揮官エディー・ジョーンズは、短期間でいかにチームを作り上げたのか。その軌跡を追った本書は、ラグビーW杯2019日本大会前に必読の一冊である。(本書評のリードから、以下同)

評者は、<はっきり言って、エディー・ジョーンズは嫌なヤツだ。自分の上司だったらと想像するとゾッとする。なにしろ、「選手だけでなく、スタッフも決して『ハッピー』な精神状態にはさせないのがエディーの仕事の進め方」なのだ。>と書いている。これは意外!

知られざる名将の素顔。ラグビー愛好家はむろんのこと、ルールを知らない門外漢であってもわかりやすく、じゅうぶんに楽しめる。

エディー・ウォーズ

生島 淳(著)
発行:文藝春秋
四六判 240ページ
初版発行日:2016年3月25日
ISBN: 978416-3904313

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●ラーメン好きなら是非読んでみたいこの1冊―-

2,『ラーメンの歴史学』バラク・クシュナー著

ラーメンは、中華由来の料理でありながら、現代日本の「国民食」の地位を謳歌する不思議な料理だ。その伝来と普及の経緯も、あまり詳しくは知られていない。実は日本のラーメンには長い歴史があり、ある日突然、我々の食卓に現れたものではなかった。(同)

そもそも古来の日本に麺類は存在せず、中世に中国留学から帰国した仏教僧が、粉を挽いて麺を打つ技術を伝えたという。これがのちに蕎麦やうどん、ラーメンに進化していくのだそうだ。著者は、全国のラーメンを食べ歩き、資料を集め本書を執筆した。

「ラーメンをめぐる筆者の関心領域は歴史から大衆文化、経済までまことに幅広い。外国人、しかも非アジア系の作者だからこそ可能にも思える縦横無尽なラーメン論を、本書で我々は美味しく味わうことができる」
と評者は書いている。ラーメン好き必読の、目からウロコのラーメン論-。

ラーメンの歴史学 ホットな国民食からクールな世界食へ

バラク・クシュナー(著)
幾島幸子(訳)
発行:明石書店
四六版 384ページ
定価:2500円+税
初版発行日:2018年6月11日
ISBN:978-4-7503-4681-6

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●読み切ったとき、必ずや至福が訪れるスパイ小説の最高傑作―-

3,『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』ジョン・ル・カレ著

英国情報部の中枢に、ソ連の情報部が送りこんだ二重スパイがいる。真相究明を託されたのはすでに引退していたジョージ・スマイリー。裏切り者を特定するカギは、かつて失敗に終わった作戦にあった。過去の記録を丹念に調べ、関係者の証言を積み重ねていくうちに浮かび上がってきた真実とは——。巨匠の名声を不動のものにしたスパイ小説。(同)

本作が、スマイリー三部作のはじまりである。スパイ小説のジャンルで、これほどいまだに読み継がれ、傑作の誉れ高いシリーズ作品はないだろう。

とはいえ、ル・カレの著作の中でも、とくにこの作品群は、読者にとってかなり手強い読み物だ。もつれた糸のように物語の展開は行きつ戻りつ錯綜し、道筋がまったく見えない。ところが、あるところまでくると、忽然と、山の頂が雲の切れ目からのぞく瞬間がある。そこから先は一気呵成だ。必ずや、読書の至福が訪れる。二重スパイを描いた小説では、本作が最高傑作だろう。

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ(新訳版)

ジョン・ル・カレ(著)、村上 博基(訳)
発行:早川書房
ハヤカワ文庫  549ページ
初版年月:2012年3月
ISBN:9784150412

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4,『スクールボーイ閣下』ジョン・ル・カレ著 

「もぐら」と呼ばれる二重スパイで打撃を受けた英国情報部は、ソ連の諜報指揮官カーラに反撃を試みる。その糸口が香港の口座に送られた巨額の資金。受取人は富豪の中国人だった。サーカス(英国情報部)に復職したスマイリーは、東南アジアに精通する工作員ウェスタビーを香港に送り込むが、その果てに浮かび上がる真相とは。スパイ小説の巨匠ル・カレが描く「アジアの冷戦」——。(同)

三部作のうち、本作が一番、エンタメ性に富み、活劇的である。香港、ベトナム、タイ、ラオス・・・、われわれには親近感のある東アジアが主要な舞台になっているので、より楽しめる。

スクールボーイ閣下(上)(下)

ジョン・ル・カレ(著)、村上 博基(訳)
発行:早川書房
ハヤカワ文庫 461ページ(上)、423ページ(下)
初版発行日:1987年1月31日
ISBN:9784150404314(上)、9784150404321(下)

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5,『スマイリーと仲間たち』ジョン・ル・カレ著

ソ連から亡命してきた「将軍」とよばれる年老いた軍人が、ロンドンで惨殺された。二重スパイだった男は死の直前、ソ連情報部の巨魁にして工作指揮官、カーラの名前を口にしていた。サーカス(英国情報部)から、もはや利用価値がないと切り捨てられていた「将軍」が、なぜ暗殺されたのか。その謎を解くべく、伝説のスパイ・マスター、ジョージ・スマイリーが引退生活から呼び戻される。ついに両雄が激突する——。(同)

三部作の掉尾を飾る、冷戦の戦士に捧げた鎮魂歌ともいうべき作品。誰しも、自分の人生にけじめをつけるときが来る。その道のプロフェッショナルは、最期をどう締めくくるのか。それなりの人生経験がある年代なら、必ず胸打たれるにちがいない。

スマイリーと仲間たち

ジョン・ル・カレ(著)、村上 博基(訳)
発行:早川書房
ハヤカワ文庫  575ページ
初版年月:1987年4月10日
ISBN:9784150404390

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●この機会に中国問題を学んでおきたいのなら、この3冊――

 

6,『一帯一路からユーラシア新世紀への道』新藤榮一・周瑋生・一帯一路日本研究センター編。

21世紀の陸と海のシルクロード「一帯一路」が動き出している。内外の研究者、政治家、産業人ら総勢48人が一帯一路を多角的、実証的に分析した本書は、建設的な政策提言を盛り込んだ「是是非非の中国論」でもある。(同)

「21世紀の国際公共財となるのか、それとも中国の膨張主義の野望なのか——。中国の習近平国家主席が2013年に提起した広域経済圏構想『一帯一路』をめぐる論争は極端に振れやすい。」と、評者は指摘する。

今後の中国の外交政策の進め方次第で、国際情勢は大きく変動する。「一帯一路」を理解するのに最適の一冊。

一帯一路からユーラシア新世紀の道

編者:進藤榮一・周瑋生・一帯一路日本研究センター
発行:日本評論社
A5版 240ページ
発行日:2018年12月25日
ISBN:9784535559332

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7,『中国経済講義』梶谷懐著

中国・習近平政権の押しも押されもせぬ看板政策である「一帯一路」を論じた本は多く出ているが、そもそも、中国にとって一帯一路が必要である理由を考えるにあたり、そのバックグラウンドとなる中国経済の内情を正確に教えてくれる本は意外に少ない。中国経済を専門とする神戸大学の梶谷懐教授が書いた本書は、その意味で一帯一路理解の指針となる一冊である。(同)

評者は、最後にこう総括している。

「日本においては、日中関係の改善基調を受けて、一帯一路への期待論が広がっている。(略)ただ、著者の指摘するように、政府間関係に基盤を置く経済活動は、過去に日中関係の悪化で証明されたように極めて脆弱(ぜいじゃく)性を持ったもので、いわゆるチャイナリスクの影響を受けやすい。本書は一帯一路ブーム的なものへの警告としても読むことができるだろう」

新書であるのも手に取りやすく、かまえずに読めるのは嬉しいかぎり。

中国経済講義 統計の信頼性から成長のゆくえまで

梶谷 懐(著)
発行:中央公論新社
新書判 272ページ
定価 880円+税
発売日 2018年9月20日

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8,『日本の「世界化」と世界の「中国化」—日本人の中国観二千年を鳥瞰する』小倉和夫著

日本は中国にどう向き合ってきたか。古代から現代まで膨大な文献を渉猟し、徹底的かつ客観的に考察した大著である。日本が世界第2の経済大国と戦略的パートナーの関係を築くには「新しい中国観」の確立が急務と説く。(同)

著者は、外務省でベトナム、韓国、フランスの大使を歴任した第一級の知識人である。評者はこう紹介している。

本書は序章と(1)古代から江戸時代までの中国観(2)近代日本における政治家、外交官、実業家たちの中国観(3)近代日本の画家、文人の描いた中国と中国人像——の3部、そして「歴史的視点にたった新しい中国観を育てるために——結びにかえて」で構成されている。

二千年の歴史を多角的な視点でたどり、「新しい中国観」を形成するための教訓やヒントを導き出そうとする。

過去の歴史から未来を見据えようとする労作である。

日本の「世界化」と世界の「中国化」—日本人の中国観二千年を鳥瞰する

小倉 和夫(著)
発行:藤原書店
B6版 352ページ
初版発行日:2019年1月10日
ISBN: 9784865782059

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●知っておくべき裏面史を描いた衝撃的なノンフィクションを2冊―-

9,『沖縄アンダーグラウンド』藤井誠二著

21世紀を迎えようとする頃まで、沖縄にはいくつも売春街があった。米兵や観光客で賑わったそれらの街は、いつ、そしてなぜ生まれたのか。丹念な取材によって、知られざる歴史や交錯する人々の感情が浮かび上がる。(同)

戦後、米軍に占領された沖縄では,米兵によるレイプ事件が相次いだ。「一般婦女子」を守るためという名目で、特殊飲食店街(売春街)が作られる。一方で、米兵が落とすドルにすがらなければ生きていけない貧しい女性もいた。著者は、彼女たちへのインタビューを重ね、その暗黒史を浮き彫りにする。

「きっとまた近いうちに沖縄行きの飛行機に乗る日が来るが、その時はこれまでとは少し違った気持ちで空港に降りるような気がする」と評者は心情を吐露している。

沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち

藤井 誠二(著)
発行:講談社
四六版 354ページ
初版発行日:2018年9月6日
ISBN:978-4-06-512827-5

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10,『THE LAST GIRL -イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語-』ナディア・ムラド著

イスラム国によって拉致され、「サビーヤ」(性奴隷)として売られ、レイプされ続けたヤズィディ教徒の女性による闘いの記録。言葉を失うような壮絶な日々を、なぜ彼女は生き抜くことができたのか——。そして、2018年にノーベル平和賞を受賞した彼女が目指す世界とは。(同)

実体験を克明に記した本書には、目を覆いたくような場面がある。

イスラム国がもたらした悲劇。いつの世でも、悲惨な境遇に追い詰められるのは弱者である。はるか遠くの国で起こった出来事として、看過するわけにはいかない。評者は「ひとりでも多くの人に手に取り、彼女の願いに触れてほしい」と記している。

THE LAST GIRL -イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語-

ナディア・ムラド/ジェナ・クラジェスキ(著)、吉井 智津(訳)
発行:東洋館出版社
四六判 416ページ
発行日:2018年11月
ISBN:9784491036175

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