【新刊紹介】離島の時空を超えた物語:古川真人著『背高泡立草』

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親類が古里の離島に集まって草刈りをする。その一日のことや、この島で起きた昔の話などが、方言を多用してつづられていく。時空を超えたその巧みさが評価されて芥川賞を受賞した、31歳の若手作家の作品。

20年以上も前に打ち捨てられ、荒れるに任せている納屋の周りに生える草を、どうして刈らねばならないのか。こんな疑問で、本書は始まる。

今は別の地に分かれて暮らす兄妹やその子ら一族が、長崎の離島に集まった。故郷の海辺に立つ納屋は、かつて祖父が漁に用いた網が積み上げられていたが、今は草ぼうぼう。

昼から皆で草刈りが始まったらしいが、突然、誰の言葉かよくわからないまま、戦中、敗戦、終戦後の島での出来事が語られていく。この作品は改行が少ないので、読みにくい個所もある。9ページにわたって改行がないところもあるが、昔の出来事や思い出を一気に語ろうとする描写のためだろう。

親類が何度も時空を超えた話を聞くうちに、作業を終える。また来年も集まって、草を刈るらしい。車に乗って帰り始めると、また、昔に戻り、江戸時代にはさかんだったクジラ漁の話にも入っていく。島に疫病がはやった時の話なども語られる。

親類がそれぞれの車に分かれて帰路につくと、昼間に撮った写真が携帯電話に届く。納屋の周りに、ほかの草より頭を出して生えていたセイタカアワダチソウも写っていた。携帯で「セイタカアワダチソウ」を検索して、現実の世界に戻っていく。

読者は、時空を行き来した奇妙な読後感を味わうことになる。

集英社
発行日:2020年1月30日
143ページ
価格:1400円(税別)
ISBN: 978-4-08-771710-5

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