越境する文学
ダルトア ご自身の作品の英語版を読むことはあるんですか?
中村 頑張って読もうとはしますよ。オーディオブックで聴いたりとか。ただ、それが正確な訳になっているかまでの判断はできないですね。翻訳者さんにまかせるしかないです。カギになる言葉がどう訳されているか気になって、飛び飛びに読むことはありますけど。
ダルトア めったにないことなんですが、私が『去年の冬、きみと別れ』を訳したとき、出版社の許可をもらって、英語版の翻訳者であるアリソン・マーキン・パウエルさんと、出版前に訳文を交換して見せ合ったことがあるんですよ。彼女もフランス語が読めるので。そうしたらお互い違いにびっくりして。翻訳者とか出版社にもよりますけど、フランスは原文に忠実であることが第一、英語圏は読者の受け入れ方を考慮して、私からすると、かなり大胆に「編集」する傾向があるんですよね。どっちがいいとか悪いとかではなくて、それぞれの国の翻訳文化というのがあるんだと思います。
中村 その国の状況に合わせたやり方でいいと思ってます。トルコ語やアルメニア語だと、日本語から訳す翻訳者がなかなかいないので、英語からの重訳になるんですが、そうなるともう確かめようがないですよね。『銃』については、これまで英語、フランス語、中国語(繁体字)で出版され、現在ドイツ語に翻訳中、ロシアからも話があるそうです。何か翻訳者ウケみたいなものもあるのかな、と思ったりもするんですけど。
ダルトア 『銃』を読んだ翻訳者は訳してみたいと思うでしょう。やはりまずあの文体だと思いますよ。私は大江健三郎賞を取った『掏摸(スリ)』を最初に訳して、その後に『銃』の話が来たんですが、ストーリーも意外だし、主人公の内面の声もあるし、文体が鋭い。すべてがそろっていて、挑戦したくなりましたね。
中村 『銃』は日本で17年目の今になっても重版されるんです。今でも新しい読者が増えているというありがたい作品です。当時は23歳で、フリーターでお金がない中、鬱屈した気持ちでこれを書いていた。最初は作家デビューしようと思って書いた時期もあったんですが、あの頃はもうそんなことは考えず、原点に戻ってまず自分のやりたいことをやればいいんだって気付いて書いていました。それが何年もたって英語やフランス語になって、こうして映画にもなるのですから、不思議な感じがします。
撮影=花井 智子
構成=松本 卓也(ニッポンドットコム多言語部)
作品情報
- キャスト=村上 虹郎、広瀬 アリス、日南 響子、リリー・フランキー
- 企画・製作=奥山 和由
- 監督=武 正晴
- 原作=中村 文則 「銃」(河出書房新社)
- 脚本=武 正晴・宍戸 英紀
- 制作プロダクション=エクセリング
- 企画制作=チームオクヤマ
- 配給=KATSU-do 太秦
- 製作=KATSU-do
- 製作年=2018年
- 上映時間=97分
- 第31回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門監督賞&東京ジェムストーン賞(村上虹郎)受賞
- 11月17日(土)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー
- 公式サイト=http://thegunmovie.official-movie.com/
- twitter=@GunMovie
予告編
(*1) ^ アルベール・カミュ『異邦人』、窪田啓作訳(新潮社)




