「一つの中国」は「蒋介石を捨てるな」に等しい

蒋介石という人物が今日でも重要なのは、特に、蒋介石が当時の敵対相手である毛沢東と一緒に作り上げた「一つの中国という前提での両岸分断」という構図から今日の台湾も中国も脱しきっていないことが大きいと思える。

台湾は、この20年間で、蒋介石が国家機構ごと台湾に持ち込んだ「中華民国」の国名と憲法と政治体制を抱え込んだまま民主化を実現した。6度の直接総統選で3度の政権交代を平和裏に成し遂げた事実は尊敬に値するものだ。もし脱・中華民国体制が実現すれば、民主化と台湾化という両輪がそろうのだが、台湾の場合は先に民主化が進行しながら、台湾化はアイデンティティなど心理面ではかなりの程度成し遂げられたが、体制上はまだ未完成なところに特色がある。

いま中国は台湾に対し、「一つの中国」という枠組みにとどまることを事実上強要している状況下にあるが、これは中国が台湾に「蒋介石を捨ててはいけない」と呼びかけているに等しいとも言える。かつては「蒋匪」と呼んだ時代を思えば、天変地異のような変わりようである。中国では蒋介石研究が徐々にタブーではなくなり、書店では毛沢東関係の書籍よりも蒋介石の書籍のほうをたくさん見かけるほど蒋介石は根強い人気を誇っている。当然、「蒋介石はなぜ失敗したか」という歴史観の本は多いが、それでも、蒋介石日記などの一時史料からしっかりと蒋介石の人物像や行動原理を探求する作業が行われていることは、中国社会の蒋介石理解にとって、プラスになりこそすれ、マイナスにはならない。

白団が生活した台湾・北投温泉の旧宿舎(提供:野嶋 剛)