チャンネル登録者数20万人のYouTuber「Iku老師」
当時その出版社が刊行する外国語教材は英語のみだったが、佐藤が中心となって日本語教材・雑誌の出版企画を立ち上げ、日本語部門と海外部門の双方を統括することとなった。またこの間、日本語教材を中心に多くの著作も発表し、イラストも自ら手掛けた。一方、出版社の仕事のかたわら、2017年3月に佐藤は自身のYouTubeチャンネルを開設した。YouTuber「Iku老師」の誕生である。
「きっかけは自分の著作を自分で紹介しようと思ったことです。新刊書のポスターを作っても、お客さんが本屋さんに行かない限り、それが眼に触れることはありません。それよりも自分が前に出て、自分の本を紹介した方が効率的です。そうしなければ、日々、多くの書籍が出版されていく中で、自分の作品が埋もれてしまうという危機感を持ったのです」。
もともと立ち上げていたFacebookのファンページを足掛かりに、YouTubeページへとファンを誘導。通常は、語学学校に通ったり、テキストを買わなければ学べないような日本語取得のためのノウハウや旅の情報を無料で惜しげもなく公開した。まずは、一番質の高い情報を徹底的に提供することで、ファン層との信頼関係の構築を図ったのだった。この戦略は功を奏した。そこでの情報に価値を見出してくれたファンは、自然な流れでIku老師の新刊本の購買者にもなってくれたのだ。
現在、Iku老師のYouTubeチャンネルは、台湾、香港、マレーシアといった華語圏の視聴者が9割を占める。そのコンテンツは日本語学習、日台の文化比較、日本の旅行情報と多岐にわたっているが、中でも人気なのは、日本各地の方言と標準語を比較した番組である。Iku老師はネルソン・マンデラの次の言葉を引き合いに、語学の向こうにある相手の文化を知ることの大切さを説いてくれた。
「『If you talk to a man in a language he understands, that goes to his head. If you talk to him in his own language, that goes his heart.(相手が理解できる言語で話せば、それは相手の頭に届く。相手の母語で話せば、それは相手の心に届く)』もし外国人がその土地の方言をその土地の人に一言でも話したら、一気に双方の距離が縮まり、信頼関係を築きやすくなりますよね」。
2018年3月には出版社を辞し、YouTuberの活動に専念することにしたIku老師。「何かをするのは苦しい時がある。でも、何もしないのはもっと辛い」を信条に、大きく人生の舵を切った。同年には 「台湾で最も勢いのある外国人YouTuber」に選出され、行政院農業委員会、台北市、苗栗県等の台湾の中央行政府や地方自治体、日台の運輸・観光業界、物流業界、飲食業界、メーカー等からも次々とコラボレーション企画のオファーが入り、台湾と日本の間を文字通り飛び回る売れっ子となった。2019年6月時点のYouTubeのフォロワーは20万人に達し、FacebookとInstagramのフォロワーも加えると、その数は30万人を超えている。コミュニケーションツールが日進月歩の進化を遂げる中で、将来のIku老師の姿はどのように変化していくのだろうか。
「帝政ローマ時代も劇場があり、役者はいました。時代が変わっても、演じる舞台が違うだけで役者自体はいつでもいますよね。身をもって自分が楽しいと思うことをし続けるだけです」。
好きなものを見つけたが勝ち。今後もIku老師の繰り出すネタや生き様を筆者もフォロワーの一人として楽しんでいきたい。
バナー写真=Iku老師(Iku老師提供)

