台湾の音楽シーンに足跡を残したい

2015年に戸田はこれまでとは違った方向で大きな決断をした。故郷の埼玉県宮代町に「カフェ・フォルモサ」をオープンさせ、夫人がこの店を切り盛りすることとなった。軌道に乗るまでの1年間は、戸田も大半を日本で費やしサポートに当たった。

戸田泰宏氏提供
戸田泰宏氏提供

「宮代町にカフェを開いたのは、長男を自然豊かな環境で育てたかったから。さらに、過去にサポートした台湾のアーティストたちから、検閲の入る中国より表現の自由のある日本で試してみたいとの声が寄せられていたからです。20人も入れば満員となる小さなスペースですが、ナイン(陳零九)やジョアンナ(王若琳)、江惠儀といったアーティストが、東京でのイベントのついでに立ち寄ってミニコンサートを開いてくれます。故郷で日台の文化交流を深化させたかったのです。海外で生活したからこそ、郷土愛が強くなったのでしょうね」。

戸田は宮代町で子どもたち向けにダンボールでカホーン(箱型の打楽器)を製作して演奏する「森のコンサート」をプロデュースしたり、宮代町PRビデオの主題歌を提供したりしている。また、町内の学校の統廃合問題を議論する宮代町有識者委員会のメンバーにも名を連ねる。

2017年からは台湾プロ野球チーム、ラミゴ・モンキーズの日本向けイベント「YOKOSO桃猿」の企画に参画し、元WANDSで『SLAM DUNK』の主題歌「世界が終わるまでは」を歌った上杉昇、テレビアニメ「ONE PIECE」主題歌「ウィー アー!」を歌ったきただにひろし、「聖闘士星矢」の主題歌「ペガサス幻想」を歌ったNoBを招聘(しょうへい)し、ライブではドラムもたたいた。

戸田泰宏氏提供
戸田泰宏氏提供

家族のいる宮代町と台湾を頻繁に行き来し、日台双方向の文化交流に奔走する戸田に、当面の目標、尊敬する人物を聞いてみた。

「今年2019年11月に、ジョアンナとララの『台湾二大女性シンガーの夕べ』というイベントを予定しています。また、日本のメディアで『中華系エンタメ』を紹介していくことが自分の使命です。尊敬する人物はドラマーの大先輩、外山明さん。デビュー直前でバンド解散に追い込まれた時に、支えてくれた精神的師匠です。外山さんからは固定観念を取り払うこと、人間はいくつになっても成長できることを身をもって教わってきました」。

戸田泰宏氏提供
戸田泰宏氏提供

今年の台湾最大の音楽賞「金曲奨」でも、戸田が楽曲参加したアーティストが数名ノミネートされていた。良い音楽を生でとことん聴き、徹底的に練習をすることで得られるという「情熱貯金」という言葉を彼から教えてもらった。七転び八起きしながらも、戸田が台湾の音楽シーンに足跡をしっかりと刻んでこられたのも、きっと情熱貯金の賜物なのだ。戸田の屈託のない笑顔の向こうにある熱い思いを感じた。そして、この言葉は次の世代の音楽家への戸田からのエールでもあるのだ。

バナー写真=戸田泰宏氏提供