シネマを熱愛する虎
自身を「映画狂」というタイガーさんは、新宿にある映画館を回り、この格好のまま、最前列に陣取る。多いときは1日に6本見たこともあるという。
——『ローマの休日』を見ているタイガーさんの表情が感動的でした。
タイガー 相手が「憧れの君」だもんね、そりゃ大変だよ。劇場でオードリー(・ヘップバーン)を見ている虎を映像に収めてくれたなんてね、夢のまた夢だからね。
佐藤 タイガーさんがスクリーンを見ているときの顔を撮りたいなと思って。僕自身、その顔を見たときに、「ああ、この人なら信じられる」と一気にタイガーさんを好きになったんです。自分の何もかもを対象に投げ出している、恋をしている男の顔なんでしょうね。
タイガー あのオードリーは映像の向こうじゃないんです。お姫様と虎がスクリーン上で共存しちゃっているんですから。あの映画は十何回も見てるけどね、今回のは特別ですよ。
美女と虎
数少ない新宿の定点観測者ともいえるタイガーさんに、半世紀の間に大きく変わった街並みについて聞くと、「時代の変化だからね、どうこう言っても始まらない」と、テレサ・テンの『時の流れに身をまかせ』を一節口ずさむ。
タイガー そういや昔、三越の前でドラマの撮影をしていたことがあったなあ。とよた真帆ちゃんから「タイガーさん」って呼び止められてさ、いや別に知り合いってほどじゃないんだけど、売れる前にね、新聞をあげたことがあったんですよ。美女にはすぐ新聞あげちゃうの。名取裕子ちゃんにもあげたっけな。そしたらね、オカダヤのエレベーターの中でもう一度バッタリ。生地をオカダヤに買いに行くんですよ。縫う才能はないから、安全ピンで留めてね。全部自分のオリジナルだからね。
——このぬいぐるみたちは?
タイガー これは「ファミリー」って呼んでいてね、人からいただいて増えていくんですよ。このクマ、誰からもらったと思います?ワカミホ(ストリッパー、アダルト女優の若林美保)ですよ。シネマート新宿で『プレイルーム』(5人の監督によるオムニバス映画、2018年)が公開したときの舞台挨拶で、「タイガーよく来てくれたねー」ってハグだよ。ステージからこのクマもらってね。亀甲縛りにしてあって、「絶対ほどいちゃダメよ」って言うから、いつも一緒ですよ。つまりワカミホの夢を一緒に背負ってるってことなんだ。
佐藤 こういう格好で長年にわたって新聞配達を続けていることがすごい。困難が伴うことも成立させてしまう。強い意志がないとできませんよね。
——街で嫌がらせに遭うことはないんですか?
タイガー ありますよ。最初の頃なんて、罵声の嵐だからね。殴られたことや、自転車ごと蹴飛ばされたことだってある。何をされても怒らない。怒りを外に出したらジ・エンドですよ。内に秘めて情熱に変えるんです。それがパワーになる。虎だから人間の好き嫌いとか、そういう感情は一切持たない。ただこよなく美女を愛する、それだけ。マリリン・モンロー、オードリー・ヘップバーン、リズ・テイラー、イングリッド・バーグマンが心の中にいつも生きてる。原動力は美女とシネマ。これがなかったらパワーが持続しないですよ。



