大型再開発が相次ぐ巨大都市・東京。その足元で人々の暮らしが息づく。東京の変化と変わらぬ姿を、東京を撮り続ける写真家・初沢亜利が記録する。今回は東京を代表する繁華街、渋谷の移り変わりについて。

交通の要衝、そして若者文化の発信地

渋谷は東京を代表する繁華街の一つであり、世界的にも知られる街となった。

かつては東京の郊外に位置する谷間の街だったが、1885年に鉄道の駅が開業し、その後、複数の鉄道路線が乗り入れることで交通の要衝として発展した。1934年には駅に直結する東横百貨店が開業。戦後は商業施設や娯楽施設が次々と生まれ、1970年代以降はファッションや音楽など、若者文化の発信地となっていった。

2019年5月1日午前0時00分、渋谷スクランブル交差点
2019年5月1日午前0時00分、渋谷スクランブル交差点

東京を作品として撮影し始めたのは2019年だった。なかでも印象深いのは、5月1日午前0時 平成から令和へと元号が変わる瞬間の渋谷の光景だ。近代以降、改元は天皇の死に伴うものだったが、今回は生前退位による移行だった。雨の降る渋谷の中心には、新しい時代を祝おうとする人々が集まっていた。しかし、その祝意の表し方は意外なほど静かだった。

2020年10月31日、渋谷センター街
2020年10月31日、渋谷センター街

企業の流行と若者文化が生み出した活気

僕は1973年に生まれ、幼少期から渋谷駅まで2kmほどのところで育った。中学生の頃には渋谷の街中にある塾に自転車で通っていた。渋谷は特別に出かける場所というより、日常的な生活圏だった。

子供の頃、母親に服を買ってもらったのは西武渋谷店のB館だった。1990年代には、自分でもよく服を買いに行った。渋谷駅周辺では東急と西武が競い合い、パルコや109などの商業施設が街の発展を牽引していた。企業が仕掛けた流行と、そこに集まる若者たちの文化が入り交じり、独特の活気を生み出していた。

2023年1月9日、「成人の日」の渋谷
2023年1月9日、「成人の日」の渋谷

高校生だった1980年代末から90年代初頭には、センター街にチーマーと呼ばれる不良少年たちが集まっていた。彼らを少し距離を置いて眺めていたが、あの頃の渋谷は、若者が居場所を求めてさまよい、時にはぶつかり合うような開放的な空間だった。

一方、道玄坂を上った先の百軒店には、昔ながらの歓楽街の面影が残っている。ラブホテル街の中にある名曲喫茶ライオンには35年ほど前から時々通っている。巨大スピーカーから流れるクラシック音楽に集中し、時が止まったような独特の空間に身を埋めた。また、線路沿いにあるのんべい横丁にも30年ほど前から飲みに行っている。小さな酒場が密集するあの一角は、大規模な再開発が進む渋谷の中で、今も取り残されたように存在している。

2026年9月30日、西武百貨店閉店の日
2026年9月30日、西武渋谷店閉店の日

巨大再開発と百貨店の終わり

2020年代に入り、渋谷の風景は大きく変わり続けている。駅周辺では巨大な高層ビルが次々と建設され、かつての街の姿は急速に失われつつある。2020年に東急百貨店東横店、2023年に東急百貨店本店、そして2026年9月には西武渋谷店が閉店した。子どもの頃から親しんだ百貨店が相次いで姿を消したことに、一つの時代の終わりを感じる。百貨店という商業の形そのものが、時代に合わなくなってきたのだろうか。

2021年9月7日、渋谷スカイ
2021年9月7日、渋谷スカイ
2026年5月7日、再開発中の渋谷駅一帯
2026年5月7日、再開発中の渋谷駅一帯

再開発によって渋谷は便利で洗練された街へと変わろうとしている。しかし、新しく完成した商業施設には空きテナントも見られ、すべてが順調に進んでいるわけではない。巨大な建物をつくれば街が活性化するというほど、都市は単純ではないはずだ。かつての渋谷には、企業がつくり出した商業文化と、そこからはみ出す若者たちのエネルギーが共存していた。今の再開発には、そうした予測できない何かが生まれる余地はあるのだろうか。

2026年7月4日、渋谷駅と恵比寿駅の間に掛かる橋の建て替え
2026年7月4日、渋谷駅と恵比寿駅の間にかかる橋の建て替え
2023年1月29日、渋谷センター街入口
2023年1月29日、渋谷センター街入口

現在の渋谷には世界中から観光客が集まり、スクランブル交差点は東京を象徴する風景となった。ハロウィンや年越しには若者が集まり、街は祝祭の場となる。近年はそうした機会に過剰とも思える警備態勢が敷かれている。かつての渋谷に感じた熱気や猥雑(わいざつ)さは、今では薄れてしまった。しかし、それは渋谷だけの変化ではない。東京も、いや日本全体が、以前よりもおとなしくなったように感じる。

2024年3月24日、渋谷区役所前
2024年3月24日、渋谷区役所前
2026年9月20日、金王八幡宮例大祭
2026年9月20日、金王八幡宮例大祭

渋谷はこれからどこへ向かおうとしているのだろう。再開発が完成しても、街が完成するわけではない。建物をつくることはできても、そこでどんな文化が生まれるかまでは設計できない。大きく変貌する駅周辺には、のんべい横丁や百軒店のような場所がまだ残っている。失われるものと残るもの、新しく生まれるものが混在する渋谷を、これからも撮り続けていく。