日本映画として初めて第96回米アカデミー賞🄬の視覚効果賞を2024年に受賞し、世界で高く評価された映画『ゴジラ-1.0(マイナスワン)』(2023)から3年。怪獣王が『ゴジラ-0.0(マイナスゼロ)』としてスクリーンに帰ってきた。舞台は再び戦後の日本。監督・脚本・VFXの山崎貴がつくり出したのは、まったく新しいゴジラ映画だ。

戦後復興期の日本にキングギドラ現る

1954年の第1作『ゴジラ』以来、70年以上にわたり日本を代表する怪獣であり続けるゴジラ。戦争と核兵器の恐怖を象徴する存在から、脅威と戦う怪獣のヒーローまで、その姿と役割はハリウッド版の製作も含め、時代とともに大きく変わってきた。

映画『ゴジラ-0.0』は、そんなゴジラの歴史を大胆に組み合わせた、山崎監督による「ゴジラ映画」の新解釈だ。前作『ゴジラ-1.0』ではシリーズ史上初めて“初代以前”を舞台とし、戦後の東京にゴジラが出現したが、今回の時代設定はその2年後。49年の日本で、三つ首の巨大怪獣・キングギドラとゴジラが出現する。

巨大怪獣の迫力は前作より大幅にパワーアップ © 2026 TOHO
巨大怪獣の迫力は前作より大幅にパワーアップ © 2026 TOHO

終戦から4年、戦火とゴジラの襲撃で壊滅的な被害を受けた日本は、少しずつ復興を遂げていた。ところがそんな折、長野県松本市に新たな怪獣キングギドラが出現。恐ろしい破壊力で都市を粉砕し、多数の犠牲者を出す。

かつて対ゴジラ作戦を立案した野田健治(吉岡秀隆)は、大型災害対策事務局長として、対キングギドラ作戦に着手する。集まったのは、優秀な気象予報官の青山眞琴(長澤まさみ)、松本でキングギドラの脅威を知らされた生物学者の村上寛治(田中泯)、そして寄せ集めのパイロットたちだ。

怪獣の脅威を阻止すべく、精鋭たちが集まった © 2026 TOHO
怪獣の脅威を阻止すべく、精鋭たちが集まった © 2026 TOHO

ゴジラとの戦いを生き延びた元特攻隊員の敷島浩一(神木隆之介)は、妻の典子(浜辺美波)、娘の明子とともに穏やかな生活を送っていた。敷島は野田に気遣われながら、対キングギドラ作戦に参加することになる。

ところが、キングギドラの力はあまりにもすさまじく、人間の力では到底対抗できない。追い詰められた一同は、ある途方もない作戦を計画する。

元特攻隊員の敷島浩一(神木隆之介)は、再び命懸けの戦いに挑む © 2026 TOHO
元特攻隊員の敷島浩一(神木隆之介)は、再び命懸けの戦いに挑む © 2026 TOHO

怪獣たちが象徴するもの

第2作『ゴジラの逆襲』(1955)でアンギラスと対決して以来、怪獣同士の戦いはゴジラ映画の見どころとなった。昭和シリーズではゴジラがヒーローとして描かれるようになり、『ゴジラVSビオランテ』(89)から『ゴジラVSデストロイア』(95)までの平成「VS」シリーズは、その名の通り怪獣バトルが見せ場。ゴジラが背負っていた核と戦争の象徴性よりも、怪獣対決の娯楽性が前面に押し出されていった。

しかし『ゴジラ-1.0』で、山崎はゴジラをとにかく恐ろしいものとして描いた。逃げ惑う人々を、ゴジラは悪意さえ感じさせる表情でぎろりとにらみつける。銀座を放射熱線で焼き払った後、街には黒い雨が降る。戦後日本で新しい生活を始めた人々に、戦争を忘れるなと迫るかのように。まるで、戦時下で命を落とした人々の幽霊のように。

山崎版ゴジラは本当に怖い  © 2026 TOHO
山崎版ゴジラは本当に怖い  © 2026 TOHO

「ゴジラとは、核と戦争の象徴である」──この原点に忠実なまま、かつて子どもたちが熱狂した“怪獣対決”を実現すること。『ゴジラ-0.0』のチャレンジは、まさしくそこにあったように思われる。

本作でも山崎は、ゴジラをヒーローとしては描かず、威圧的な実在感と重量感をそのままに、人智を超えた存在として表現した。前作でも印象的だった、身がすくむほどの咆哮(ほうこう)音もさらに強化されている印象だ。

対するキングギドラは、復興期の都市をあっさりと破壊するエネルギーをもつ。突如として飛来し、街を破壊すると消えていく──。ゴジラが核と戦争の象徴なら、キングギドラは自然災害の象徴ではないか。その脅威は、吹き荒れる暴風がそこにあるもの全てを奪い去るかのようだ。対キングギドラ作戦に参加する気象予報官の青山が、台風予測のエキスパートだという設定もこれを示唆する。

青山眞琴役の長澤まさみ。ゴジラ映画への出演は22年ぶり © 2026 TOHO
青山眞琴役の長澤まさみ。ゴジラ映画への出演は22年ぶり © 2026 TOHO

キングギドラを撃退するため、ゴジラとの対決を仕掛ける人々の計画は、すなわち予測不能な災害を、人間にも制御できない兵器で抑え込もうとすることだ。一同は科学技術を駆使し、さまざまな困難を伴う怪獣討伐に臨む。

前作で『ジュラシック・パーク』(1993)や『ジョーズ』(75)への敬意を捧げた山崎は、本作でも巨大怪獣が襲いかかるパニック・ホラーとしての演出を徹底しつつ、人間サイドは怪獣討伐に命を懸ける専門家たちの“ミッションもの”として構築。前作は人間ドラマに重点を置いたが、今回はどこか『シン・ゴジラ』(2016)に近いテイストが加わった。

駆逐艦「雪風」元艦長の堀田辰雄(田中美央)らは、今回も最前線で怪獣と対峙する © 2026 TOHO
駆逐艦「雪風」元艦長の堀田辰雄(田中美央)らは、今回も最前線で怪獣と対峙する © 2026 TOHO

原爆とゴジラ、ふたつの惨禍を生き延びた男

もっとも山崎は、『ゴジラ』シリーズの原点にあくまでも忠実であろうとしている。

作品の核は、『ゴジラ-1.0』から続く「戦争の記憶」だ。前作でその主題を担ったのは主人公の敷島だったが、本作では敷島に代わり、田中泯演じる村上教授がキーパーソン。戦争で家族を失うも、自分だけが生き残り、ゴジラの襲撃という新たな惨禍も生き延びた人物である。

元特攻隊員の敷島は、人間兵器として戦争に動員され、生き残ったことに罪悪感を抱えていた。その一方、同じく“生き残ってしまった男”の村上は、あまたの命を奪ったゴジラを、今度は脅威を退けるための兵器として起動する立場となる。

村上教授役の田中泯(左)は終戦直前の1945年3月生まれ。映画の設定に確かな説得力をもたらす © 2026 TOHO
村上教授役の田中泯(左)は終戦直前の1945年3月生まれ。映画の設定に確かな説得力をもたらす © 2026 TOHO

1945年の原子爆弾と、47年のゴジラ。山崎は、『ゴジラ』史上かつてなかった凄惨(せいさん)な描写に踏み切ることで、両者のイメージをダイレクトに重ね合わせ、戦争と核兵器の脅威を観客に突きつけた。

村上を演じた田中は、その唯一無二の身体性をもって、戦争を経験した人間の怒りと悲しみ、執念を体現した。圧倒的な暴力の恐怖を知るはずの男が、皮肉にもその暴力に引かれてゆく──。村上がゴジラに重なって見える表現は、戦後の日本を精緻に再現した美術とVFX(視覚効果)を食い破るほどの生々しさだ。

「ゴジラ」の矛盾を抱えて

監督・脚本・VFXの山崎貴。2度目の『ゴジラ』で自らの作家性をより強く打ち出した © 2026 TOHO
監督・脚本・VFXの山崎貴。2度目の『ゴジラ』で自らの作家性をより強く打ち出した © 2026 TOHO

『ゴジラ-0.0』は「兵器」と「暴力」を巡る映画だ。しかし、そもそもゴジラ映画の醍醐味(だいごみ)は「破壊」と「戦闘」である。前作が海外で高く評価されたのも、ゴジラという怪獣の造形はもちろん、驚くべき視覚効果でその真髄を伝えることができたからだろう。

本作もまた、ゴジラ映画としての醍醐味を最新技術で表現した映画だ。怪獣同士の激突には、ハリウッド版にも実現できなかった恐ろしさと荘厳さ、かっこよさがある。クライマックスでは長年のファンも鳥肌が立つのではないか。

しかも本作は、前作以上に「ゴジラ映画」であることに意識的だ。ゴジラと敵怪獣を対決させるべく人間が奔走するプロットは、『キングコング対ゴジラ』(1962)や『ゴジラVSデストロイア』(95)、『ゴジラ FINAL WARS』(2004)といった先例のアップデート。ゴジラ細胞の描き方は『ゴジラVSビオランテ』(1989)や『ゴジラ2000 ミレニアム』(99)の設定が生かされており、とある作戦は84年版『ゴジラ』を思わせる。

敷島の妻・典子(浜辺美波)。大型怪獣の討伐作戦に巻き込まれていく © 2026 TOHO
敷島の妻・典子(浜辺美波)。大型怪獣の討伐作戦に巻き込まれていく © 2026 TOHO

ゴジラが登場するたび恐怖を覚えながら、キングギドラとの対決には胸が高鳴る。人間たちが懸命に制御しようとする力を、もっと見たいと願ってしまう。そう、破壊を恐れることと、その力に引かれることは、村上教授ひとりの矛盾ではない。怪獣同士が戦うスクリーンを見つめる私たちもまた、圧倒的な破壊力に魅了されているのだ。

ゴジラとは核と戦争の象徴であり、観客を熱狂させるアクションスターでもある──。山崎が本作で観客に体験させるものは、ゴジラという存在が長年の歴史で抱えこんできた歪(ゆが)みだ。戦場で傷ついた人々の姿や、これまでにない暴力的な怪獣バトルの中にこそ、その矛盾は凝縮されている。

だからこそ、『ゴジラ-0.0』はかつてないゴジラ映画であり、奇跡的なゴジラ映画なのだ。めっぽう恐ろしく、美しく、そしてエンターテインメントである。

作品情報

© 2026 TOHO
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  • 出演:
    神木 隆之介 浜辺 美波
    山田 裕貴 佐々木 蔵之介 國村 隼 田中 美央 安藤 サクラ
    長澤 まさみ 田中 泯 吉岡 秀隆
  • 監督・脚本・VFX:山崎 貴
  • 制作:東宝
  • 制作プロダクション:TOHO スタジオ ROBOT
  • VFX:白組
  • 製作年:2026年
  • 製作国:日本
  • 上映時間: 135分
  • 公式サイト:https://godzilla-minuszero.toho-movie.jp/

    2026年11月3日(火・祝)全国東宝系にてロードショー

予告編

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