叙勲という非外交的な交流

今回の政権交代によって、基本的に「日華」よりも「日台」への指向性を持つと考えられる民進党政権が誕生し、日本と領土問題や歴史問題が起きても民進党は「国民党のように大騒ぎはしない」ということを暗黙のルールとして対日関係をマネージメントしようとする可能性が高い。その背後には、台湾に対して、日本が政策的な恩恵を与えてくれることへの期待もある。外交関係のない日本が、台湾側の期待に十分に応えられず、台湾側にストレスが生まれることもあり得る。陳水扁政権期には台湾にそうした不満も存在したと記憶する。

だが、日本の政府も当時と現在とでは状況が違い、いくつも台湾への好意を示す方法、カードを増やしている。最近刊行された拙著『台湾とは何か』(ちくま新書)で明らかにしているが、台湾関係者への叙勲がいい例だろう。台湾出身者に対しては1972年の断交以来、ほとんど行われず、中国に対しては比較的活発に叙勲が行われていた。国交の有無で差をつけていたのは明らかだった。

そこに変化が訪れたのが2005年の春だ。元台湾日本語教育委員会で、東呉大学客員教授の蔡茂豊に、日本語教育への長年の尽力を評価して「旭日中綬章」が贈られた。同年秋には、台日経済貿易発展基金会の李上甲理事長に、同じく「旭日中綬章」が贈られた。以後、叙勲対象者は増え続け、著名人では、2012年には、中国商業信託銀行グループを率いた辜濂松と、エバーグリーングループの創業者である張栄発に、それぞれ「旭日重光章」が授与された。2015年秋に「旭日重光章」を受けた彭栄次は李登輝訪日を裏で仕掛けた人物だ。親日派の経済人として有名な奇美実業の許文龍も「旭日中綬章」を受けた。

一方、2015年に「旭日重光章」を受けた江丙坤は、馬英九政権で対中国窓口として中台関係改善交渉の最前線に立った人で、李登輝時代の元駐日代表、許水徳は台湾人で過去最高ランクの「旭日大綬章」を受けた。そうかと思えば、司馬遼太郎の『台湾紀行』や小林よしのりの『台湾論』で、「老台北」として登場した蔡焜燦も「旭日双光章」を2014年に受章している。

ここから分かることは、日本政府は、台湾内の政治的立場を意識的に超越した形で、日台交流に貢献した人に叙勲を行うことで日台関係を長期的に強化する狙いを持っていることである。日本は台湾に対して「外交」ができない中、叙勲は「非外交」の部分で数少ない有用な手段だと言える。