台湾人の優しさは冷たい社会から身を守るため?

陳さんは義兄弟に対する気持ちを「言葉では言い表せない特別な友情」と言う。「ただの友達ではない、本当の兄弟でもない」。昨年、義兄弟の自宅の一部が火事で焼けた。8人がそれぞれの家族を伴って駆け付け、掃除や片付けを手伝った。「困難なときは助け合える、すごく重要な存在」だ。火事のような突発的な事故もそうだが、親が亡くなったときが一番大変だ。台湾では通夜が2~3週間続く。その間、出棺まで必ず誰かがひつぎのそばに付き添わなければならない。そんなとき、頼りになるのが義兄弟。交代制で喪主の負担を減らす。肉体的にはもちろん、精神的にも義兄弟がいてくれるのはありがたいに違いない。

台湾では「兄弟會」(義兄弟)のほかに女性同士の「姉妹會」、子どもの親同士の「父母會」などいろいろあるそうで、一人でいくつもの「會」に入っている人もいるという。彼らの生活の中には、互いに助け合うネットワークが張り巡らされているのだ。われわれ外国人は、台湾の人たちの互助精神のおこぼれに預かっており、それを台湾人の優しさや親切さとして受け取っているのだと思う。このことを陳さんに言ってみた。すると意外な答えが返ってきた。「(義兄弟は)冷たい社会の中の温かいもの。台湾は個人主義社会だからこそ、心から助け合う精神を必要としているのでは」。何という皮肉。これ以上ないほどの人びとの温かさは、冷たい社会から身を守るためだというのか。知れば知るほど知らないことが増えていく台湾で、また一つ分からないことが増えてしまった。もちろん、分かろうと分かるまいと、台湾の人びとの優しさが変わることはない。

陳さんの結婚披露宴で 義兄弟はブルーのおそろいのネクタイで進行を全力サポート、2003年(提供:陳韋辰)

バナー写真提供:酒井 充子