映画界が衰退するも、新たな作品が続々誕生
2000年前後には製作される作品数が大幅に減り、台湾映画界は一度、大きく力を失った時期もあった。しかしその後、民主化の浸透と中台関係への危機感から急速に盛り上がった「台湾アイデンティティー(台湾本土意識)」に呼応するかのように、日本時代を台湾の歴史の一部として描いた『海角七号 君想う、国境の南』(08年)が誕生。これを大きな転機として、以後作られた台湾ローカル色の強い作品の中には、優れたLGBTQ作品も多く存在する。
12年に公開された『GF*BF』は、1990年の民主運動・野百合学生運動を背景に1人の女性と2人の男性の友情と恋愛を描き大きなヒットとなった。また、『醉・生夢死』(15年)や『満月酒』(15年)『日常対話』(17年)『自画像』(17年)など話題作が次々と登場する中、冒頭に挙げた『阿莉芙』はLGBTQ×アイデンティティーをテーマにした台湾映画が、またひとつ新たな局面に入ったことを世界に示したと言えるだろう。
しかし一方では、伝統的・保守的な考え方が堅固に存在する台湾社会において、宗教的な理由や保守派層による同性婚反対の声も高まっており、同性婚合法化に反対する「公投」(日本でいう国民投票)の開催が呼び掛けられるなど、社会的な分断が進んでいることも注視していく必要がある。
多様性と寛容の共存が描く未来的美しさ
国家アイデンティティーとは多くの場合、突き詰めるほど排他的になっていく。日本の場合も国学の発達から、明治期には日本アイデンティティーを持つ国民が形成されたが、後には他民族への同化の働き掛けを強め、その波は朝鮮・台湾まで及んだ。近年では再び右傾化により、在日外国人へのヘイトスピーチが社会問題にもなっている。
しかし台湾における台湾アイデンティティーの深まりを見ていると、日本とは真逆の現象が起きているように感じる。それは先住民、スペイン・オランダ、清朝、日本、中華民国という、台湾の今日までの歴史の内在化であり、台湾が台湾らしくあろうとするほど、玉手箱のようにさまざまなエスニシティの共存する多様性をはらんでいること、それが映画『阿莉芙』や同性婚合憲解釈が生まれる土壌になっていると言えそうだ。台湾が内包するのは、多様性と寛容とが共存することで描き得る未来的な美しさである。それが今日本人をはじめ、多くの外国人を引き付けるゆえんではないかと思う。
バナー写真=里山珈琲(提供:栖来 ひかり)