メイドイン台湾にこだわる「MR TAPIOCA」
その自由が丘の裏通りで、たまたま移動販売のキッチンカーを見つけた。目に飛び込んできたのは、ブラックボードに記された店名の「MR TAPIOCA」と「台湾」の文字だ。近づくと「台湾式バブルティー 味はとても牛逼(ニュービー)です」とも書いてある。「牛逼」とは、ネットスラングで“超”や“すっげー”のような意味として使われる言葉だ。
「店長さんですか?」
牛逼を使いこなせる日本人なら、かなりの中国語通に違いない。買う予定のなかったキッチンカーの横に立っている若者の男性に声をかけた。
「僕は違います。キッチンカーの中にいる人が店長で、台湾人です」
のぞき込めば、大きな容器からタピオカをすくい出している男性が一人いる。なかなかのイケメンだ。
少しはにかみながら自己紹介してくれた店長は、今年30歳になる台湾の苗栗出身の客家人・謝文森さん。最初に応対してくれた日本人の友人が接客を担当し、2人で店を切り盛りしていると言う。
謝さんは台湾で薬学部を卒業し、薬剤師として病院で勤務した経験もあるが、日本好きが高じて、日本に語学留学にやってきた。語学学校での勉強を終え、そのまま台湾に戻るのが惜しくなり、「もう少し日本に滞在したい」と願った。一般企業に勤務できるほど、日本語は流ちょうではない。台湾らしい何かで起業しようと考え、「タピオカドリンク」にたどり着いたという。
実は謝さんが「タピオカドリンク」の店を開こうと考えたのは、現在のタピオカドリンクブームよりも2年も前のことだった。一日も早くオープンしたいとは思ったが、素人でもあり、真面目な性格なので、いったん故郷の台湾に戻り、お茶とタピオカについて専門家に師事を仰ぐことにした。
台湾ですら、多くのチェーン店はコスト削減のため、安価な東南アジア産の茶葉やタピオカを使用していることにがくぜんとした。だから、すべてメイドイン台湾にすることが、謝さんのポリシーになった。
「茶葉は全て台湾のものを使い、タピオカは台湾から冷蔵品を輸入しています」
薬剤師としての謝さんの血が騒いだのだろう。体に取り入れるものなら、より安全で、体にいいものを揃えることにした。
話を聞いていると、続々とお客さんが集まってきてオーダーが入った。謝さんは慌ててキッチンカーに戻り手際よく作り始める。
店名シールが貼られたプラスチックボトルの口に漏斗を刺し、準備したタピオカを入れていく。オーダーに合わせ、ミルクや台湾烏龍茶、台湾緑茶、台湾紅茶などを注ぎ入れ、完成だ。話しかける隙もないほど真剣なまなざしで作業する姿は、薬剤師が調剤を行なっているようにも見えた。
全ての工程を一人でさばく。一日の生産量には限界があり、量産できないのが悩みだと言うが、手作りこそ、謝さんのこだわりでもある。
店の看板メニューは今流行中の黒糖タピオカミルクティー。早速注文し、出来たてを味わってみた。おお、と唸ってしまった。芳醇(ほうじゅん)な黒糖の香りが口全体に広がり、ストローから放出されるタピオカは良質な材料であることが分かる豊かなモチモチ感で、とても濃厚な味わいだ。
正直、私にはちょっぴり甘いが、育ち盛りの若者なら、これくらいの甘さがないと物足りないのだろう。体重計が気になる私には、台湾緑茶のタピオカドリンクがいいかもしれない。クリアなお茶色のはずが、ボトルの中の液体は白濁している。お茶と氷がしっかりとシェイクされた結果、細かい泡がたくさん生み出され、いわゆる「泡沫茶」状態になっている。
口に含むと茶葉の渋みと甘みが程よくブレンドされ、すっきりとした喉越しでゴクゴクと楽しめる。個人的にこれからの暑い季節には、お茶本来の味がより強く出ている、ミルクなしのタピオカドリンクをすすめたい。
