「一国二制度を決めた者こそ香港独立派」と主張し批判を浴びる

1960年代以前の香港警察は組織の腐敗が深刻で、社会から忌み嫌われていた。そこに、腐敗取り締まりを任務とする「廉政公署」が1974年に設立され、組織の浄化が始まった。

その後、ジャッキー・チェンが主演・監督した『ポリス・ストーリー香港国際警察』(1985年)で描かれたように警察のイメージは格段とアップした。以後、アンソニー・ウォンが出演した『インファナル・アフェア』シリーズや『コールド・ウォー』シリーズなど、ヒット映画にはいつも格好いい香港警察の姿があった。

その変貌の理由について、アンソニーの考えはこうだ。

「ある勢力が、ある力が、警察を変えたんだ。内地(中国)政権の公安が香港警察の内部に浸透したのだろう。証拠はない。しかし現象面からみれば、そうとしか思えない。最初は小さな変化だったかもしれないが、いまは大きな変化になり、離職してしまった人も多いだろう。昔、英国人がインド人警察を連れてきて中国人をいじめたのと似ている。中国による香港の植民地統治のようなものだ」

もしそうであるならば、香港警察の栄光を演じてきた役者として悲しくはないですか?

「私に言わせれば、以前の皇家警察は死んでしまったし、過去の香港映画も戻ってこない。警察も、映画も、違うものになったんだ」

雨傘運動で批判を浴びた時、何があったのか。アンソニーは振り返った。

「あれはまったくでたらめなことだった。まず中国でおかしなブラックリストが広がり、そこには私だけではなく、チョウ・ユンファ(周潤発)とかアンディ・ラウ(劉徳華)、トニー・レオン(粱朝偉)らの名前もあって、ほとんど全員が香港独立派だというひどいものだった。催涙弾を市民に撃つなんて受け入れられないと言っただけで、香港独立派というレッテルを貼られる。私はそのことに対して、ネットでそれはでたらめだと主張したんだ」

ところがネットは大炎上し、香港人は愛国的ではないからパスポートを取り上げろ、という意見すらあったという。「人民日報」の系列紙で、愛国的な論調で知られる「環球時報」も、アンソニーを批判した。

「香港人が愛国的ではないことを批判するなら、一国二制度をどうして決めたんだ、それを言い出した人こそが香港独立派じゃないかと主張したんだ。そして、それは鄧小平だろうと。私は毒舌なんだよ。言いたいことは言ってしまう。北野武に似ているかもしれないな」

香港映画界で友人を失ったのではないか?そう尋ねると「私は、もともと友人は少ないから、関係ないさ」と笑った。ただ、彼は間違いなく、香港映画の真ん中で活躍を長く続けてきた一流の俳優であった。アンディ・ラウのような華やかさはないが、渋い中年男性を演じさせたら天下一品だ。

アンソニー・ウォン氏(筆者撮影)
アンソニー・ウォン氏(筆者撮影)