死者へのロマンチックな贈り物

亡くなった愛する人のために出来ることは、私たちにとってそう多くはない。しかし張徐沛さん達の力を借りれば故人の願いを、望みを叶えることができるのだ。そして、そのために膨大な時間と手間をかけて作られたものを、最後には盛大に燃やしてしまう。なんと贅沢で、なんとロマンチックな贈り物だろう。気の遠くなるほど精緻に丹精した品物を納めて最後に燃やされるときの気持ちを聞いてみたいとふと思ったが、陽光がきらきらと反射して澄みきった静かな湖面のような張徐沛さんの眼を見ていると、何だかとてもクダラナイ質問に思え、聞くのをやめた。

張徐沛さん一家。弟の徐展さんは紙工芸の技術を使ってストップモーションアニメを制作している(筆者撮影)
張徐沛さん一家。弟の徐展さんは紙工芸の技術を使ってストップモーションアニメを制作している(筆者撮影)

葬礼も祭儀も時代と共に簡素化し、紙工芸の需要も減ってしまった。かつては台湾北部で45軒ほどあった同業者も今では10軒ほどになった。張徐沛さんの2人の子どもはそんな家業を継ぐ決心をした。姉の宛瑩さんは、コンピュータのプログラマーから転職し、4年程前から本格的に家業を手伝っている。身近すぎて分からなかったその貴重さや文化的価値を、一度社会に出たことで改めて見直せたという。弟の徐展さんは、“紙紮”を現代美術と融合させた作品を作るアーティストで、短編映像が金馬奨にノミネートされたこともあり、2020年のヨコハマトリエンナーレにも招かれた。近年、姉弟は友人の詹昱筑さんと共に「新興糊紙文化」というチームを立ち上げ、地元の子供たちのためのワークショップを手掛けたり、絵本制作に参加したり、台湾映画の話題作『同學麥娜絲』(黃信堯監督)に美術協力したりと、台湾伝統工芸と他の文化に跨る「越境者」として、“紙紮”の多様な可能性に光を当てている。