2022年GWに読んでおきたい「ニッポンの書棚」お薦めの10冊

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コロナ禍にウクライナ侵攻と、これまで経験したことのない事態に遭遇しているからこそ、時間のあるときに読書で思索を深めておきたい。本サイト「ニッポンの書棚」では、毎月、多くの書評をお届けしている。ここに紹介する10冊は評者お薦めの作品ばかりだ。激動の時代を乗り切るヒントが見つかるかもしれない。

●核戦争の破滅は、たった一人の指導者の判断に委ねられている

1. ウィリアム・ペリー、トム・コリーナ共著『核のボタン』

プーチン大統領が核兵器の使用に言及したことで、にわかに核戦争の危機がクローズアップされている。著者のウィリアム・ペリーは、クリントン政権で国防長官を務めるなど、政権内で核使用の危険性を間近に経験してきた人物だ。本書は、キューバ危機など紙一重だった過去の事例を振り返りつつ、核戦争が起こる最悪のシナリオをいくつも提示する。サイバー攻撃による核攻撃の警報システムの脆弱性を明らかにし、誤爆のリスクが高まっている。恐ろしいのは、たった一人の指導者が、誤った判断で「核のボタン」に手をかけることで世界が滅びてしまうことだ。

ウィリアム・ペリー、トム・コリーナ共著『核のボタン』

朝日新聞出版
発行日:2020年6月8日
価格:2530円(税込み)
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●プーチン大統領の暴挙を予見した警告の書

2. マデレーン・オルブライト著『ファシズム 警告の書』

3月24日、米国初の女性国務長官を務めたオルブライト氏が逝去した(享年84)。本書は、旧チェコスロバキアで生まれ、ナチスの脅威から逃れるために2度、亡命した体験を持つ彼女が、ファシズムとは何か、そのファシズムが1世紀ぶりに再来しかねないと警鐘を鳴らした警告の書である。彼女は「アメリカの影響力の低下が一因となり、世界の自由、繁栄、平和に対するファシズムとファシスト的政策の脅威が、第二次世界大戦が終わって以降、類を見ないほど深刻化している」との強い危機感をもっていた。本書で彼女はプーチン大統領の資質について言及しているが、まさに今日を予見させるものである。

マデレーン・オルブライト著『ファシズム 警告の書』

発行:みすず書房
価格:3300円(税込み)
発行日:2020年10月1日
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●フェイクニュースにだまされないために

3. 坂本旬、山脇岳志編著『吟味思考を育むメディアリテラシー』

偽情報が、「プーチンの戦争」でクローズアップされている。インターネット上には膨大な情報が飛び交っているが、個人が消化できる量を超えており、その真偽を見分けるのは難しい。虚偽の情報にだまされないため、必要なのが読み解く力、「メディアリテラシー」だ。本書は30人以上の学者、ジャーナリスト、教育関係者らが寄稿、インタビュー、座談に応じたもので、フェイクニュースを見極める心構えや実践例を多角的に紹介している。あふれる情報に溺れる時代だからこそ、立ち止まって考える「吟味思考」が求められる。メディアリテラシーを高める上で、本書は格好の手引きとなるだろう。

坂本旬、山脇岳志編著『吟味思考を育むメディアリテラシー』

時事通信出版局
発行日:2022年1月20日
価格:2750円(税込み)
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●日本よりはるかにデジタル化の先を行く中国経済の実態

4. 西村友作著『数字中国 デジタル・チャイナ コロナ後の「新経済」』

コロナウイルスのパンデミックにもかかわらず、その震源地とされた中国が感染を抑え、2020年にプラス成長を遂げたのはなぜか。北京で20年間、現地の経済金融系大学で日本人初の専任講師を務め、中国経済とネット革命を目撃してきた新進気鋭の学者がその謎を解き明かす。コロナ禍で中国国内におけるキャッシュレス化はさらに加速しており、個人消費は大きく落ち込んだものの、多くの国民がインターネット通販を使って買い物をしたことが経済成長に寄与した。日本よりはるかにデジタル化の先を行く中国経済の実態を紹介する。

西村友作著『数字中国 デジタル・チャイナ コロナ後の「新経済」』

発行:中央公論新社
発行日:2022年2月10日
価格:990円(税込み)
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●女性皇族の視点に立つ、大正・昭和の皇室のご結婚

5. 林真理子著『李王家の縁談』

秋篠宮家の真子さまのご結婚が世情を賑わしたことは記憶にあたらしい。女性皇族の結婚は、今も昔も難しいものだった。本書は、皇太子(後の昭和天皇)のお妃候補の一人でもあった娘・方子の結婚に奔走した梨本宮伊都子(いつこ)妃が主人公の、史実に基づいた小説である。彼女は、泣いて嫌がる娘を説得し、日韓併合後の朝鮮王族、李王家の王世子(皇太子)に嫁がせる。これまで方子は「日韓融和のための政略結婚」を強いられた悲劇の女王とされてきたが、本書は定説を覆して、母の伊都子が主導した結婚だったことを明らかにした。女性皇族の視点に立つ大正、昭和の皇室の一面が巧みに描かれている。

林真理子著『李王家の縁談』

発行:文藝春秋
発行日:2021年11月25日
価格:1760円(税込み)
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●知的刺激に満ちた「最も年の離れた友人」の異色の対話

6. 丹羽宇一郎・藤井聡太『考えて、考えて、考える』

伊藤忠商事を長年率い、中国大使も務めた丹羽宇一郎氏と、14歳で最年少棋士となり、アッという間に五冠を獲得した藤井聡太氏は同じ愛知県の出身で、2018年に初めて会って以来、年に数回、話をする友人であるという。本書はふたりの対談をまとめたものだが、年齢差63歳の会話はエネルギッシュで刺激に満ちている。話題は将棋にとどまらず、人生観や恋愛観(!)、勝負ごとへのメンタリティや世界史へと縦横無尽に広がっていく。異分野のプロフェッショナルが会話することで、それぞれが新たな何かを見つけていく。そこに対談を読む楽しさがある。

丹羽宇一郎・藤井聡太『考えて、考えて、考える』

発行:講談社
発行日:2021年7月21日
価格:1540円(税込み)
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●「毛沢東時代への回帰」といわれる習近平の中国を理解するために

7. 程映虹(著)、劉燕子(編訳)『マオイズム(毛沢東主義)革命 二〇世紀の中国と世界』

毛沢東主義(マオイズム)の革命思想は、1950年代から60年代にかけて中国から世界に向けて「輸出」されたが、本書でアフガニスタンのタリバンがひとつの例として挙げられているように、その影響力はなお健在だ。本書は、マオイズムがもたらした世界に対する甚大な負の遺産を体系的に総括する。中国共産党結党100年を迎え、習近平・国家主席は前例なき三選に向けて個人への権力集中を強めている。彼に率いられる中国の統制強化が、しばしば「毛沢東時代への回帰」「文革の再来」と取りざたされる今日だからこそ、手に取ってもらいたい内容だ。

程映虹(著)、劉燕子(編訳)『マオイズム(毛沢東主義)革命 二〇世紀の中国と世界』

発行:集広舎
発行日:2021年8月10日
価格:4950円(税込み)
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●「ウィズ・コロナ」の時代に訪ねてみたくなるお寺ガイド

8. 鵜飼秀徳著『お寺の日本地図』

著者は、「日経ビジネス」などで記者として働きながら、僧侶として寺務にも携わってきた異色の経歴の持ち主。本書のユニークなところは、あえて「1都道府県につき1寺院」を選んで紹介していることだ。本書は単なるお寺のガイドに留まらず、その狙いは、お寺を通して県民性をも浮き彫りにし、「寺院とは何か」さらには「日本人とは何か」を探ろうとするものである。とくに「ウィズ・コロナ」の時代において、お寺の存在は光る。辛い境遇に立たされている人々の心を落ち着かせ、社会の安寧を保つ機能があるからだ。日常に疲れたら、本書を参考に、ぜひともお寺に足を向け、本尊に手を合わせてもらいたいと思う。

鵜飼秀徳著『お寺の日本地図』

文藝春秋
発行日:2021年3月17日
価格:1100円(税込み)
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●中国、北朝鮮の脅威から日本を守ることができるのか

9. 岩田清文・武居智久・尾上定正・兼原信克著『自衛隊最高幹部が語る 令和の国防』

平和な国ニッポンは、戦後、リアルな軍事の議論を避けてきたために、いま重大な脅威にさらされている。本書は、数年前に退官したばかりの陸幕長、海幕長、航空自衛隊補給本部長と元内閣官房国家安全保障局次長ら軍事に精通した最高幹部の座談会をまとめたもので、日本の国防の脆弱性が浮き彫りにされる。著者らの共通認識は、米国の核の傘なくして、日本が中国や北朝鮮の侵攻を抑止するのは不可能ということだ。ことに習近平の中国は、南シナ海、尖閣諸島、台湾を本気で狙っていると考えておかなければならないが、日米同盟側には、いまだにまとまった戦略がない。いまそこにある危機について考えさせられる。

岩田清文・武居智久・尾上定正・兼原信克著『自衛隊最高幹部が語る 令和の国防』

新潮社
発行日:2021年4月20日
価格:902円(税込み)
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●従業員の生活を第一に考えた熱き企業経営者の物語

10. 楡周平著『黄金の刻 小説服部金太郎』

「世界のセイコー」の創業者服部金太郎(1860~1934)の伝記小説である。一介の丁稚奉公に始まり、彼はいかにして「時計王」と呼ばれるまでの成功をおさめたか。明治から昭和に至る激動の生涯を、著者は鮮やかな手際で描き切る。明治7年、彼が目をつけた商いが時計商だった。新橋に鉄道が開業し、これから先、人々の生活は「正確な時間を知ることが必要になる」と考えたからだ。金太郎は、進取の精神に富み、従業員の生活を第一に考えた。この物語には、熱い感動がある。こうした企業経営者が今の世にもいてほしいと願うばかりだ。

楡周平著『黄金の刻 小説服部金太郎』

集英社
発行日:2021年11月30日
価格:2200円(税込み)
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バナー写真:PIXTA

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