海外売り上げトップだった台湾

「海外の国別売り上げでは(台湾が)ナンバーワンで、全社の売り上げの1割ぐらいを稼ぎ出していました。台北や高雄など都市部にファンが広がって、これから地方都市にも広げていきたいというところで震災に遭いました」(佐藤社長)

福島県産の日本酒は全国新酒鑑評会において、8年連続で金賞受賞数ナンバーワンを達成している。福島ブランドの中でも自慢の業種だ。だが、逆にそれがハンディキャップになる時期が続いた。台湾では地道にイベントを重ねて、持ち直してきたところだ。

「日本食が世界に進出しているなかでまだまだ日本酒も伸びる余地はある。台湾でも1年間ぐらいは出荷できなかったが、やっと回復してきました。競争相手も多いですが、台湾に期待しています」

佐藤社長は、蔵の前で力を込めた。

ただ、日本酒のように海外に輸出できる農産品は少ない。最も大きな打撃を受けてきたのは、農業県福島が全国に誇るフルーツの生産だった。

福島市郊外の山麓にある「ABE果樹園」(株式会社ABE Fruit)はリンゴを主力で生産している。蜜であふれた高徳という品種のリンゴを見せてもらった。糖度を測るためのライトにかざすと、明るくまばゆい光を放った。口にすると、ねっとり歯にからみつく。パイナップルと誤解しそうな、リンゴの概念が崩れる味わいだった。

蜜度測定器にかけると全体が光る高徳
蜜度測定器にかけると全体が光る高徳

タイ向けに市場開拓

もともとは普通のリンゴを作っていた。阿部秀徳社長が経営を継いだ時、父の代から残していた高徳の樹が果樹園に一本だけあった。それを接ぎ木で増やし、やがて農園の主力になった。デパートで売ればあっという間に売り切れる。スーパーなどには卸しておらず、ネットなどでの直販が中心で、リピート率は9割を超える。

ただ、高徳は栽培が難しく、手がかかる。収穫時期の見極めも難しい。そして、小さいほど蜜が多く、甘くなる傾向がある。リンゴは大きく、丸いというイメージがあるが、高徳は私の拳よりも小さい。だが、値段はABE果樹園で作っているシナノスイートの倍にもなる。それがいま海外で大きく人気を集めている。タイ向けに2019年は100キロを出荷した。2021年は350キロになる見込みだ。タイでは、デパートや富裕層に直接届けられているという。

海外進出のメリットを阿部社長はこう語る。

「海外向けは価格も高いが、病虫害にも厳しい。スタッフにも厳しく品質管理を求めるので、レベルが上がります」

自社のリンゴを手に取る阿部社長
自社のリンゴを手に取る阿部社長

福島の果物輸出先の中心だった台湾

台湾や韓国など大きな市場の制裁解除への期待を込めて、アジア向けの輸出をさらに増やすべく、農産物の安全で適正な生産を保証するASIAGAP(Asia Good Agricultural Practice)の認証も獲得した。日本以上にクオリティが求められる土地で勝ち抜けば日本での信用アップにもつながる。

ただ、海外は日本以上に風評被害がきついと感じる。

「本当の風評被害は海外ですね。ジャパン、フクシマというとあからさまにノーと言われてしまう。防護服のイメージがあるから。販売のイベントでもフクシマというとサーっと人がいなくなってしまったこともあった。徐々に回復したのは震災から3年目ぐらいからでしょうね。でも海外に出したいとずっと思ってきた。海外で評価されているとブランドのアイデンティティになる」

海外の人々が買ってくれるかどうか、風評被害が終わるかどうかは、自分たちでは決められない。そんな風に、福島で農産品に関わる人たちの多くが、口をそろえた。それは、十年という歳月を耐えて過ごしてきたからたどりつける一つの境地と言えるだろう。それまでに、自分たちでやるべきことをやっておこう。そんな決意が福島の人たちからは伝わってきた。

福島県にとって、台湾は果物輸出のもっとも重要な相手の一つだった。特に桃の人気は高く、震災前は年間70トンを輸出していたという。日本食レストランが多く、日本の農産物・水産物への信用も高い。そんな台湾マーケットをまるごと失ったことは、福島の農漁業にとって手痛い打撃だった。規制解除という再出発の日がくるまで、輸出できる体制を守っていくことも欠かせない作業である。