地ビールで南相馬の原料を
福島市の郊外にオープンしたばかりのビール店「Yellow Beer Works」(カトウファーム運営)を訪れた。開店直後ということもあるのだろうが、大きなタンクやビンに入ったビールを買って帰る人たちの行列に、店を開いた加藤晃司さん、絵美さん夫婦は大忙しだった。同店の一押しという「ZASO ALE」ビールを飲ませてもらいながら落ち着くのを待った。同店のビールはフルーティーなアメリカンスタイル。zasoというのは、店のある福島市大笹生(おおざそう)から取っている。
いわゆる地ビールだが、違いは、福島・南相馬の原料を使っているところだ。
普段は農家として南相馬でコメなどを作っている。福島県には地ビールがあまりない。何か新しいことを南相馬の農業と絡めて始めたいと考え、ビールにたどりついた。ビールの原料には、全量ではないが、南相馬の大麦とホップを使う。ビールといえば、透明な液体のイメージだが、この店のビールは濁っている。そして、毎日のようにビールの種類も変わる。
「酵母とホップの組み合わせで無限の違いが出せるんです。レストランで飲むビールとはちょっと違っていて・・・。一期一会みたいなビールです」と絵美さんは胸を張った。店のHPには「訪れるたびに違う味が楽しめる」と書かれている。
夫婦で4人の子育てをしながら、2009年に脱サラして農業に取り組んできた。震災を経て向き合ったのは、福島の農業はどうあるべきかという本質的な問題だ。高齢化に震災や風評被害も加わって、生き残りの道を考える日々が続いた。
「いまはお米も全量検査して、自信を持ってお客さんに出せるところまできました。それでも嫌な人もいるでしょう。そういう人たちの意見も受け入れたい。台湾の人たちだって、嫌がらせで福島のものが嫌だと考えているわけじゃない。安心できないなら食べてもらえなくてもしょうがない。10年、20年でもそういうことは覚悟しています。あなたが作るなら安心できる、そう言ってもらえるようになるまでは、私たちがやれることをやっておいて、海外から飛行機に乗って福島まで私たちのビールを飲みにきてくれる日がくるまで、農業もビールも頑張っていきます」
風評後遺症という逆風はなお
福島県の農産物について、いまは次第に日本国内で心理的アレルギーは減ってきたと言えるだろう。だが、やはり影響は消えていない。福島牛のキロあたりの卸価格はいま2000円ほど。全国より200円近く安い。震災前も全国平均より安かったが、それでも数十円の違いだった。福島牛というブランド牛でさえ価格差に苦しんでいる。コメなどは品質以上に産地で価格が決まる傾向がある。福島のコメはブランド米ではなかったが、さらに震災で価格が下がった。
肉もコメも野菜も、国内の市場では安全だと認識されても、福島産はあえて高い価格を設定すべきものとは認識されていない。風評被害の後遺症という逆風はいまなお吹いている。だが、それに立ち向かう阿部さんや加藤さんの歩みは続いていく。
台湾や世界が、福島の食をいつ受け入れるのか。政治の努力だけでは解決しない。現地の人々に輸入解禁を求めれば求めるほど、こじれる面もある。ただ、まずは台湾の人々に、福島の食を支える人たちが10年間積み重ねた努力を知ってもらいたい。
撮影:仙波理
バナー写真=収穫された高徳


