被写体の行事には自ら参加し、撮影するのがモットー

人物、風景の他に熊谷の写真にはもう一つの特徴がある。それは伝統行事や習俗を外からカメラに収めるのと同時に、自身がその撮影対象となる行事に飛び込んでしまうことだ。近年ブームの「環島」と呼ばれる自転車で台湾を1周するツアーや日月潭を泳いで横断するイベント「泳渡日月潭」、旧正月の15日前後に台東市で行われる奇祭「炸寒単爺」(爆竹をみこしの上の神様寒単爺に投げ込む祭り)の現場には、時に自転車にまたがり、また時に湖を泳ぎ、はたまたみこしの上で寒単爺の神様に扮(ふん)する熊谷の姿がある。

「世の中には文字だけでは分からないことがいっぱいあります。実体験で見えてくる世界があるのです。台湾をもっと知りたい、ただそれだけです。例えば、『炸寒単爺』では、みこしの上で体感する揺れや投げ入れられる爆竹で身体が灼(や)ける痛み、煙を吸い込んでの呼吸困難、これらによって意識が薄れて一種のトランス状態に陥り、本当に神様に近づけた気がしました」

撮影の対象にいったん内側まで入り込んで体感した上で、再びファインダー越しに対象を捉える熊谷のスタイルは、なかなかまねできるものではない。これは台湾という土地に対する止めどない好奇心と愛情があり、なおかつそれを支える体力と行動力があって初めて成り立つことなのだ。

提供:熊谷 俊之