「食育」を台湾に根付かせるために「子ども食堂」を作りたい
原田は名古屋の味をかたくなに守る一方、妊婦や子どもたちには、味付けをしないスクランブルエッグを提供するなどの配慮を見せた。また、台湾人の食習慣にも真摯(しんし)に対応した。台湾では農耕に役立つ牛を家族と見なす人や神明のお告げで牛肉を食さない人が一定数いる。また内臓肉は食べない人もいる。当初はメニューに置いていた牛肉料理を最終的に全て外し、牛筋やモツを入れない豚バラのどて、豚ひき肉100%のハンバーグがこうして誕生した。名古屋と台湾の食文化がここ名古屋台所で見事に融合した。
「当初は包丁の握り方も知らなかった」と謙遜する原田だが、小学5年生で既に台所に立っていたという。外食は年に一度だけという家庭に育ち、食へのこだわりは栄養士の母親から譲り受けた。大学の卒業論文は児童心理学をテーマとし、児童養護施設の子どもたちと触れ合ったことがきっかけで、子どもたちの食の安全にも関心を持つようになった。
「今の夢は台湾で『子ども食堂』を作ることです。子どもは大人が一番に守らなければならない財産です。『食育』を台湾に根付かせたいのです」
昨年名古屋に帰省した折、尊敬する祖父が「戦後に学校給食を定着させた」功労で叙勲を受けていたことを初めて知った。自分の食に対する思いの原点は祖父にあった。原田は子どもの食育が自分の使命であることをこの瞬間確信した。子ども食堂を立ち上げるための資金や基盤を整えることも見据え、この年末には桃園県のショッピングモール内に姉妹店を開設する予定だ。台湾で食育の概念が広まり、子ども食堂に多くの賛同者が現れてくれることを原田は期待している。
最後に座右の銘を聞いた。妻の実家の柱の貼り紙に日本語で書かれているという「何事も根気よく」との言葉を原田は挙げてくれた。かつて日本語教育を受けた妻の祖母の筆によるものだという。歳月を経て張り紙は色あせてしまったが、故郷の名古屋の名を看板に背負い、台湾に生きる原田の心には、この言葉はいつまでも輝きを放ち続けることだろう。
バナー写真=原田潤氏と経営する「名古屋台所」(筆者撮影)
