仮想巨大電波望遠鏡プロジェクトの台湾代表に就任

2000年代後半になると、SMAの次世代型の電波干渉計ALMA(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)が、標高5000メートルに位置するチリのアタカマ砂漠に設置されることとなった。米・欧・日の共同プロジェクトだったが、台湾も米国と日本にそれぞれ5%予算を出資するマイナー・パートナーとして、その建設に関わった。

ALMAは口径12メートルの電波望遠鏡50台から構成される。これはSMAの25倍強の規模に当たる。松下は2010年、今度はチリに飛んだ。16台の電波望遠鏡で干渉実験に成功し、1年半で最初の科学観測が可能となるまで仕上げた。

口径12メートルのALMAの電波望遠鏡と松下聡樹氏
口径12メートルのALMAの電波望遠鏡と松下聡樹氏

続いて12年には、超長基線干渉計VLBI(Very Long Baseline Interferometer)の運用に向け、グリーンランド望遠鏡(Greenland Telescope、以下GLT)の設置に携わることとなった。

観測のためにGLTの鏡面についた雪を落とす松下聡樹氏
観測のためにGLTの鏡面についた雪を落とす松下聡樹氏

「基線」とは電波干渉計を構成する電波望遠鏡同士の距離を指し、基線が長いほど望遠鏡の解像度が上がる。ハワイのSMAの最長基線は約500メートル、チリのALMAは約16キロメートルである。

一方、今回グリーンランドに新たに設置されるGLTは、SMA、ALMAを含む世界各地の電波望遠鏡とネットワーク化され、VLBIとして運用することで、巨大な仮想電波望遠鏡の一翼を担うこととなる。この仮想電波望遠鏡の口径に相当する「基線」の距離が、最長で約9000キロメートルにも達することから「超長基線」と呼ばれている。この距離は地球の直径(1万2740キロメートル)の70%に相当する。

そして、この仮想巨大電波望遠鏡を用いて、射手座AスターやM87といったブラックホールを撮像し、その謎の解明を推進しているのが、国際研究グループ、イベント・ホライズン・テレスコープ(Event Horizon Telescope、以下「EHT」と略称)である。EHTは世界各地の約350人のメンバーから構成され、台湾からは約50人が参加し、松下はその代表を務めている。

「このプロジェクトの成功は、地球サイズの巨大な電波望遠鏡ができることを意味します。解像度も飛躍的に上がり、これまで謎に包まれていたブラックホールの境界面の解明にも、飛躍的に近づくこととなります」

こうして17年12月に、松下とその同僚らはGLTが仮設置されたグリーンランドの米軍のトゥーレ空軍基地に派遣された。マイナス30度の極寒の地にありながら、松下らは2カ月という異例の速さでGLTを科学観測可能な状態に仕上げた。超寒冷地仕様の電波望遠鏡の開発にも、約20年にわたって蓄積された台湾の技術が生かされていたことは特筆しておこう。

将来、GLTを移設する予定のグリーンランド山頂基地を訪れた時の松下聡樹氏
将来、GLTを移設する予定のグリーンランド山頂基地を訪れた時の松下聡樹氏