独メディアに競り勝った理由は?

では、なぜFT売却先が急転直下、日本のメディアになったのか。国内外の報道によれば、買収に名乗りを上げ有力視されていたのはドイツの新聞大手、アクセル・シュプリンガー社だった。同社は約1年前からピアソンと話し合いを重ね、これまでにも欧州のデジタル企業を買収してきた実績がある。さらに、米ブルームバーグ通信や米トムソン・ロイターも買収競争に加わる中で、最後に手を挙げたのが日経だった。

岡田社長によると、日経とピアソンの交渉が始まったのは、わずか5週間前だった。争奪戦を制した決め手はやはりキャッシュだったのか。7月23日に両社の3トップが電話会談し、交渉の土壇場で日経がライバルを上回る買収額の現金払いを申し出たことで劣勢を覆したという。WSJ紙によると、財務に慎重なアクセル・シュプリンガー社は、日経の買収提示額では高すぎると判断したという。買収交渉は「日経による買収発表の直前まで続いた」とされるだけに、落胆したようだ。

FT経営陣の自由裁量を尊重?

日経とFTには経済紙としての類似性はあるが、日経は最終局面で買収価格を上乗せしたうえ、FTへの投資にも意欲を示したと伝えられる。また、ドイツ企業より日経のほうがFT経営陣の自由裁量に任せる部分が多い、と受け止められたこともライバルに差をつける結果となったとの見方もある。

英メディアは、日経とFTの相違点について、次のように指摘する。「2014年のFTの有料デジタル購読者は50万人を超え、全体の70%に達しているが、FTに比べるとデジタルの有料購読者40万人の日経は、紙への依存度がまだ高い」(英『デイリーテレグラフ』紙)。また、『ガーディアン』紙は社説で、「購読者が高齢化する日本では、紙の新聞の衰退は必至とされ、世界有数の質を誇り、収益も上げるFTという国際的なデジタルブランドを日経が狙ったことは理解できる」と分析している。

世界の主要メディアで続く買収劇

近年の世界のメディア業界では、紙媒体で衰退トレンドが続き、新聞社買収例も多い。その中にはWSJ紙を発行する米ダウ・ジョーンズ社やロイター通信社、フランスの高級紙『ルモンド』、さらにはアマゾンの創業者に身売りした米『ワシントン・ポスト』などの例があり、今後も業界再編の動きが続くとみられる。

近年の世界の主要メディア買収例

時期 メディア名 買収した企業など 買収額
2007年 ダウ・ジョーンズ社(米国)=ウォールストリート・ジャーナル紙を発行 メディア複合企業の米ニューズ社 約6600億円
2007年 トリビューン社(米国)=ロサンゼルス・タイムズを発行 個人投資家 約9800億円
2008年 ロイター通信社(英国) カナダの金融情報大手トムソン 約2兆1000億円
2010年 ルモンド(フランス) 投資家グループ 約120億円
2011年 ハフィントン・ポスト(米国)=ニュースサイト ネットサービス大手のAOL 約250億円
2013年 ボストン・グローブ(米国)=ニューヨーク・タイムズ社傘下の地方紙 ボストン・レッドソックスのオーナー 約69億円
2013年 ワシントン・ポスト(米国) アマゾンの創業者 約246億円
2015年 フィナンシャル・タイムズ(英国) 日本経済新聞社 約1600億円

*買収額は当時の為替レートによる換算額

そこに共通しているのは、デジタル時代を迎えインターネット媒体の興隆で伝統メディアで発行部数の低迷、広告収入の減少など業績が悪化していることだ。その一方で、ネットを通じたニュースは一般読者向けだけでなく、企業向けの有料経済情報の重要性も増している。新興メディアが台頭する中で、有力メディアは紙とWebによるメディアミックスの事業戦略を強めている。