日経の経営に重荷となるのか

では、今回の日経によるFT買収額はやはり破格なのか。FTの2014年の売上高は3億3400万ポンド(約645億円)で、営業利益は2400万ポンド(約46億円)。昨年の売上高の2.5倍でFTの企業価値を評価したという。これに対し、日経は1600億円の買収費用を手元資金と金融機関からの借り入れで賄うという。日経の2014年12月期連結決算によると、純資産は約3147億円。一部は借り入れに頼るというが、やはり高額な投資である。

日経とFTは以前から記事の相互利用などで関係が深いが、買収により人材の交流やノウハウの交換が可能になり、「FTの持つ資産価値と、両社でつくる新しい価値を考えると見合う金額」(岡田社長)としている。日経は国際化・デジタル化への大勝負に出たことになるが、日経OBの1人は新たな経営の重荷になる可能性を次のように語る。

「日経の連結売上高が約3000億円なのに、買収費用は1600億円と巨額。日経の昨年12月決算では現金・預金は1000億円ほどだが、銀行からの借り入れについては今後、元金・利子の返済が経営の重荷になってくる可能性もある」

日英メディアで企業風土の違い

喜多会長は「両社には共通点が多く、報道姿勢も同じ」と語るが、企業風土の違いを心配する声も聞かれる。国内の経済ニュースで他社を圧倒してきた日経だが、海外メディアからは「日経には特権的アクセスが与えられるような深いつながりが企業や政府との間にある」(『テレグラフ』紙)との指摘もある。NYTも「粉飾会計など企業の不正は、通常、外国メディアなどが先に書いて後追いする場合が多い」と評した。

2011年には日本のオリンパス粉飾決算問題を最初に報じたのがFTで日経など国内各紙が後塵を拝したことで、こうした指摘を受ける背景となっている。FTの元編集者は『フォーブス』誌への寄稿の中で「重要な問題はFTがどの国のために報じるのかということで、否応なしにFTは日本の権力のもう一つの機関となる運命にあるようだ」と辛口の論評をしている。「日本株式会社の広報紙」と揶揄する声が国内にもあっただけに、日本と欧米メディアの文化の違いを認識する必要もありそうだ。

グローバル展開で自信見せる

今回の日経・FTの連合軍は、実際のところどこまでメディア業界の地殻変動につながるのだろうか。日経がFTの支援を得ながらデジタル中心にグローバル展開を強化すれば、さらに先進的メディアに変貌していく可能性がある。岡田社長は「日経・FTはコンテンツ面でも規模的にも、世界最大のメディアになる」と、グローバル競争に勝ち抜く自信を示した。

FTは中東やアフリカにも強く、英字紙ならではの強みでオバマ米大統領やプーチン・ロシア大統領ら世界の首脳も目を通しているといわれる。それゆえに、日経のFT買収は「高い買い物ではない」との見方もある。それはともかく、世界の経済メディア・ビジネスが日経・FT連合と、米WSJを傘下に持つダウ・ジョーンズ、米ブルームバーグ、トムソン・ロイターなどに集約されていくのかどうか注視したい。

両社のプロフィール

〈フィナンシャル・タイムズ〉
1888年創刊。本社・ロンドン。経済・ビジネス専門メディアとして世界的に影響力を持つ。紙面と電子版を合わせた発行部数は73万7000部で、うち7割の約50万人が電子版の購読者。紙面は欧州だけでなく米国やアジア、日本でも発行している。2014年のグループ売上高は約644億円。

〈日本経済新聞〉
1876年、三井物産系の「中外物価新報」として創刊。本社・東京。複数の経済紙の買収を経て、1946に「日本経済新聞」に改称。販売部数は朝刊が273万部、夕刊138万部(2014年12月)。2010年に電子版を創刊し、有料会員は約43万人。2014年12月期の売上高は3006億円。

カバー写真=買収を報じるフィナンシャル・タイムズ、日本経済新聞など各紙(提供・田中庸介/アフロ)